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  • 【元裁判官弁護士 特別座談会 後編】
    元裁判官の弁護士5名が語る「訴訟に強い」法律事務所
    ——「裁判官」と「弁護士」2つの視点


    「この訴訟は本当に勝てるのだろうか」——企業の法務担当者や経営者の多くが、一度はこうした不安を抱えたことがあるのではないでしょうか。外部の弁護士に相談したにもかかわらず弁護士の見通しが甘かったために予想もしなかった敗訴を体験した企業も少なくありません。

    三村小松法律事務所には、元裁判官の弁護士が米国裁判所の裁判官経験者も含めると6名所属しています。この記事では、裁判官と弁護士の双方を経験した専門家が、裁判所はどこを見て判断を下すのか、他の法律事務所からも意見を求められる理由はどこにあるのか、「訴訟に強い」法律事務所を支える弁護士たちの座談会形式でお伝えします。


    企業の労働紛争への備え
    東京地裁労働部と大規模法律事務所の双方を知る弁護士の視点

    ——早田先生は東京地裁労働部のご経験がありますが、企業が関与する労働紛争での注意点について教えてください

    早田
    労働紛争は件数が多く、こじれると解決に時間がかかります。他方で企業活動の根幹に関わるかというと、ほとんどの場合はそれほどではないですから、早い段階で和解に向けて動くことが企業にとって有効な場合が多いと感じています。

    近年は人材の流動性が高まり、副業も一般的になってきていますが、それに伴って労働関連のトラブルも増えています。日本では基本的に解雇が難しいこともあり、こうした紛争は今後も増えていくと見ています。また、企業側には、部分的な労働時間だけでなく業務全体を含めた労働時間管理を行うことが求められますが、副業の方まで管理するのは現実的ではありません。あとはいわゆるジョブ型の導入についても、成果を出せていない人が紛争の発端になることが多いわけですが、こういう新たな制度も運用を誤ると紛争の火種になりえます。
    制度と実態のずれがトラブルを生むこともありますから、制度の形だけを整えるのではなく、実態に即した運用が重要です。ここまで考えている企業は意外と多くありません。

    労働紛争は、事実認定や手続の積み重ねで結論が左右される場面が多い分野です。裁判所がどの段階で、どのような証拠を重視するのかを踏まえておけば、いざ紛争になったときの見通しも立てやすくなります。就業規則や労働時間の記録といった平時の備えが、後の紛争の行方を大きく左右します。

    ——裁判官退任後、大規模と中小規模の2つの法律事務所で働かれていますが、大きな違いや印象は何かありますか?

    早田
    裁判官を退官した後、アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て、三村小松法律事務所に参画しましたが、大企業と中小企業くらい違いますね。大規模事務所では私のようなカウンセルの立場の場合、基本的に所内のパートナー弁護士から仕事を受けるという点で、一般的な営業活動と変わらない面があります。クライアント獲得の営業活動はなく、所内でアドバイスをすることでフィーをつけてもらうという形でした。パートナーとカウンセルでは求められる姿勢が大きく異なるのです。
    裁判官としての姿勢と弁護士としての姿勢、これらの異なる文化を経験したことで、クライアントの立場と裁判所の立場の双方を、バランスよく捉えられるようになったと感じています。裁判所の内側から見た視点と、大規模事務所で企業を支援する視点の両方を持てることは、依頼者にとっても意味のあることだと考えています。


    行政・税務・相続をめぐる企業紛争の勘所
    裁判所の判断傾向と、同族企業・名誉毀損リスクへの対応

    ——森先生は行政部・租税部でのご経験がありますが、行政処分や税務が絡む企業紛争には、知財とはまた違う「裁判所の癖」があると思いますが、どんな備えが有効でしょうか?


    裁判官は、事件をそれぞれの責任で独立して判断していますから、裁判官の個性がかなり出ます。「この裁判所はどういう考え方で判断するのか」という点は、担当する裁判官によって大きく変わることがあります。さらに、専門部は特定の分野を集中的に扱うため、その部門ならではの傾向が形成されることがあります。例えば、行政や租税、知財といった分野では、専門部の裁判官がある程度共通した視点を持つ傾向があります。ただし、事件が別の部に移った途端に傾向が変わることもあり、外部からは非常に見えにくい部分です。

    東京や大阪の地方裁判所には知財事件を扱う専門部があり、高等裁判所も、知財高裁または大阪高裁の知財事件を扱う部で審理されるため、1審、2審を通じて、専門部の裁判官によって扱われます。しかし、それ以外の事件、例えば、行政事件は、高等裁判所に専門部があるわけではありません。同じ事件でも、地裁と高裁で、あるいはどの部の、どの裁判官が担当するかによって、審理の進め方や重視される点が変わってくることがあります


    田原
    第一審裁判所特に専門部の判断については、控訴審(高等裁判所)も尊重する傾向はみられますが、自身の判断を貫く傾向のある裁判官もおり、結果が予想と異なる場合もありますね。こうした傾向を理解した上で、どこまでを争うのかなども含めた訴訟戦略について検討し準備していくことが、企業側にとって必要であると考えています。



    行政や税務が絡む紛争では、企業側としては、行政とのやり取りや、自社が提出した資料を時系列で整理しておくことが、後の争いで大きな意味を持ちます。行政の分野は、民事のように相手方と対等な立場で争うのとは異なり、規制当局との関係という独特の構図があります。だからこそ、資料をそろえておくことが重要です。

    ——田原先生は家裁も含め幅広く経験されています。オーナー企業・同族会社の紛争や、名誉毀損・コンプライアンス調査について、経営者に伝えたいことはありますか?

    田原
    同族企業に関連する紛争では、「企業でありながら、その財産や株式が誰のものなのか?」をめぐる争いが少なくありません。地方裁判所には、こうした中小企業の相続がらみの事件が数多く持ち込まれます。相続が絡むと、一つの財産をめぐって複数の相続人がそれぞれ代理人を立て、一つの案件から複数の紛争が派生します。費用も時間も大きくかかってしまうのです。特に地方で事業に成功し、資産を築いた方の場合、こうした争いが大規模化する傾向があります。
    だからこそ、その前の段階で「どうするのか」をきちんと決めておくことが重要です。元気なうちに「株式や事業を誰に引き継ぐのか」を決め、法的な裏付けを整えておいていただきたいと思います。


    山田
    問題の根本には、節税ばかりに目が向いて、法的な権利関係の整備が後回しになっている、という構図があります。税理士が節税を重視するあまり、法律的に権利がどうなっているのかが曖昧になり、それが紛争のきっかけになっているケースがたくさんあります。節税だけでなく、法的にどうなるかという点も、早い段階で弁護士に相談されることをお勧めします。特に同族経営では、この視点が欠かせません。ベンチャーやスタートアップは法務体制をある程度整えて始めることが多いのですが、身内で経理を担うような同族企業は、そこが手薄になりがちです。


    田原
    名誉毀損やコンプライアンスに関わる調査についても申し上げます。コンプライアンス系の調査では、ヒアリングを行って事実を整理し、調査レポートにまとめるという作業が中心になります。この作業は、裁判官の仕事と非常に親和性が高いと感じています。多数の資料及び聴き取り等に基づき事実を認定して事案を整理し、評価・判断するという点で、まさに裁判官として行ってきたことそのものです。

    事案によっては、内部の人間関係が複雑に絡み、また、本来問題を指摘した側が逆に攻撃されているような状況も見られます。だからこそ、第三者的な立場からの公正な調査を行い、検討した結果を残すことが、企業や役員個人にとっての備えになります。名誉毀損やレピュテーションのリスクは近年高まっており、問題が大きくならないうちにこのような備えをしておくことが、必要かと思います。


    紛争を未然に防ぐ契約書・証拠戦略
    中堅・中小企業が押さえるべき予防法務のポイント

    ——契約書や証拠の段階から、訴訟を見据えた助言ができるのでしょうか?

    三村
    契約書の文言について、あえて解釈の幅を残す「玉虫色」の書き方をせざるをえない場面があります。その際に、「こう書いておけば、後の裁判で有利になる」という視点を織り込むことができます。相手が不利になる書き方について、リスクを説明した上で「どうしますか?」と選択肢を示すこともあります。
    文言の段階で複数の元裁判官が検討し、合議のうえで方針を固められることは、他の事務所ではなかなかない特徴だと思います。


    早田
    契約書が訴訟の原因になるケースは少なくありません。しかし、その契約書を作成した弁護士が、そのまま訴訟の代理人になることは、実はほとんどないのです。だからこそ、契約の段階から訴訟を見据えて関与できることには、大きな意味があります。実際に、契約の文言の段階でご相談いただいていれば防げたはずの紛争を数多く見てきました。また、契約書でカバーしきれない部分は、メールなどの記録に残しておくことが有効です。裁判の資料は、その多くがメールなどのやり取りになります。ここで押さえておきたいのが、日本の訴訟制度の特性です。


    日本は、米国のようなディスカバリー、つまり証拠開示手続きがなく、当事者側が提出する証拠を選べるという、比較的珍しい特徴を持っています。海外のディスカバリーでは原則としてすべての証拠を開示しなければなりませんが、日本では、代理人である弁護士が提出する証拠を選べるのです。この特性を理解した上で、平時からきちんとテキストで記録を残しておくよう助言することも、私たちのアドバンテージの一つです。ただし、記録が残っていなければ選ぶこともできませんので、日頃からの備えが欠かせません。


    三村
    裏を返せば、自社にとって有利な事実を、あらかじめ記録として形に残しておくことが、いざというときの強力な武器になります。口頭でのやり取りは、後になって「言った・言わない」の争いになりがちです。重要な合意や確認事項は、その都度メールなどのテキストで残しておく。この習慣があるかどうかで、訴訟になったときの立証のしやすさが大きく変わります。契約書の段階から関与し、さらに日々の記録の残し方まで見据えて助言できることが、裁判の実務を知る私たちの強みだと考えています。

    ——成長期の中堅・中小企業にとって、紛争は経営そのものを揺るがします。まだ紛争になっていない段階の企業に、元裁判官として伝えたいことはありますか?

    山田
    私たちは、これまで大企業の案件を数多く手がけてきました。大企業は、最先端の契約実務や紛争対応の知見を蓄積しています。そこで培った知見を、中小企業の実情に合わせて提供できることが強みです。中小企業が大企業を一つの手本としながら、身の丈に合った形で法務を整えていく。そのお手伝いができると考えています。

    中小企業やベンチャー・スタートアップでは、法務体制がまだ十分に整っていないことも少なくありません。特に同族経営の場合、身内で経理などを担っているケースが多く、権利関係が曖昧なまま事業が進み、後々の紛争につながりやすい面があります。


    三村
    訴訟になる前の段階でご相談いただければ、見通しを立てた上で、そもそも紛争を避けるための助言ができます。契約の文言の段階から複数の元裁判官で検討し、後の訴訟で不利にならないように整える。こうした予防的な関わりこそ、クライアントにとって最も価値のある部分だと考えています。
    紛争が起きてから対応するのではなく、その前の段階で備えておくこと。これが、成長期の企業が経営を守る上で、最も大切なことだと考えています。

    中堅・中小企業にとって、一つの紛争が経営の屋台骨を揺るがすことは珍しくありません。大企業であれば、法務部門が組織的にリスクを管理し、複数の外部弁護士を使い分けています。一方、成長期の企業は、限られた人員で経営とリスク管理の両方を担わなければなりません。だからこそ、要所で的確な助言を得られるかどうかが、その後の明暗を分けます。
    私たちは、大企業向けに培った実務水準を、中小企業が無理なく取り入れられる形に落とし込んでお伝えすることを心がけています。まだ紛争になっていない段階だからこそ、打てる手が数多くあるのです。


    元裁判官の弁護士5名からのメッセージ
    「こういう紛争でこそ力になれる」各弁護士が語る強み

    ——最後に、それぞれのご経歴を踏まえて「自分はこういう訴訟・紛争でこそ力になれる」というメッセージを一言ずつお願いします

    三村
    前例のない新しい論点や、リーディングケースとなるような困難な紛争でこそ力を発揮できると考えています。新しいものを恐れず、経験に裏打ちされた判断でお役に立ちたいと思います。訴訟につながる契約書についても、文言の段階から見立てを立て、後の紛争を防ぐお手伝いができます。


    山田
    知的財産訴訟のほか、会社訴訟・行政訴訟・国側代理・公証と、多様な経験を束ねて、さまざまなジャンルにまたがる紛争に対応できます。一つの案件に複数の論点が絡む場面でこそ、専門家の集合知としてお応えします。



    裁判官として、知財事件を中心に幅広く事件を担当してきました。そのような経験に基づき、クライアントの事業や業界を深く理解した上で助言したいと考えています。


    早田
    労働・一般民事を中心に、訴訟だけでなく、その前段階の予防法務や体制整備でもお役に立てます。次世代の裁判官出身の弁護士にも、ぜひこの環境で活躍してほしいと願っています。


    田原
    知財訴訟のほか多くの専門・通常民事、相続事件の経験から、知財案件のみならず、相続・同族企業の紛争等を含む民事全般やコンプライアンス調査等で力になれると考えています。


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    法律相談のご案内

    「この訴訟は勝てるのか」「契約書のこの文言で問題ないか」——こうした疑問をお持ちの経営者・法務担当者の方は、ぜひ一度ご相談ください。

    三村小松法律事務所では、元裁判官の弁護士が、裁判所の視点を踏まえた見通しをお伝えします。訴訟に強い法律事務所として、紛争が起きる前の予防法務から、実際の訴訟対応まで、幅広くサポートいたします。知財はもちろん、会社法・行政・労働・相続といった多様な分野の紛争について、複数の元裁判官が一つのテーブルで検討し、多角的な助言を差し上げることが可能です。「勝てるかどうか」の見通しを早い段階で立てることは、無用な訴訟を避け、経営資源を守ることにもつながります。まずはお気軽にご相談ください。

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    プロフィール

    三村 量一(みむら りょういち)
    1977年 東京大学法学部卒業。1979年より東京地方裁判所判事補などを歴任。1981〜1983年 ドイツ連邦共和国ケルン大学に留学。最高裁判所調査官、東京地方裁判所知的財産部裁判長、知的財産高等裁判所判事、東京高等裁判所判事などを歴任。2009年 第一東京弁護士会登録、長島・大野・常松法律事務所パートナー、2019年 三村小松法律事務所を共同設立。法制審議会委員、著作権法学会理事、早稲田大学法科大学院客員教授などを務め、2018年度に知財功労賞(経済産業大臣表彰)を受賞。民事局在籍時に民事執行規則の立案を担当した経験を持ち、知的財産法分野を軸に民事執行法や国際私法にも精通。

    山田 知司(やまだ ともじ)
    1977年 東京大学法学部卒業。1979年より各地の裁判所に勤務、1993〜1997年 東京法務局訟務部にて国側の代理人(訟務)を担当。東京高等裁判所知的財産専門部判事、大阪地方裁判所の知的財産専門部・会社法事件専門部・行政訴訟集中部や大阪高等裁判所知的財産集中部の裁判長などを歴任、2017〜2024年 公証人を務め、2024年8月 三村小松法律事務所入所。知的財産に加え、会社法・行政訴訟・国側代理(訟務)・公証と、極めて幅広い経験を持つ。

    森 義之(もり よしゆき)
    1979年 東京大学法学部卒業。1981年より東京地方裁判所判事補などを歴任。1986〜1987年 判事補在外研究員としてイギリスに留学。大阪地方裁判所(行政租税部)、名古屋地方裁判所(行政・知的財産部)、東京地方裁判所知的財産部裁判長などを歴任。最高裁判所調査官、知的財産高等裁判所判事(裁判長)などを務める。2026年 三村小松法律事務所入所。裁判官として長年にわたり、行政・租税・知財・交通など多分野の審理に携わってきた。

    早田 尚貴(はやた なおき)
    1990年 東京大学法学部卒業。1993年 裁判官任官。東京地裁判事、東京高裁判事、知財高裁判事、最高裁事務総局行政局第一課長などを歴任。1998〜1999年 米国ニュージャージー州上級裁判所などで在外研究。2015〜2023年 アンダーソン・毛利・友常法律事務所スペシャル・カウンセル。2023年10月 三村小松法律事務所入所。労働・一般民事・司法行政(事務総局)・憲法・行政法と、幅広い分野に精通。

    田原 美奈子(たはら みなこ)
    東京大学法学部卒業。1996年 裁判官任官。京都地裁、東京地裁(交通・労災専門部)、東京家裁(遺産分割専門部)、千葉地裁(医療集中部等)、大阪地裁(知的財産権部)、東京高裁などに勤務。2002〜2003年 弁護士(在仏)、2024年8月 三村小松法律事務所入所。著作権法学会、日本工業所有権法学会、第一東京弁護士会知的財産法研究部会等に所属。知財・交通・医療・相続・コンプライアンスと、幅広い民事分野の経験を有する。

    【2026.8.21】

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