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  • 【連載 実務家のための営業秘密入門】第4回 
    営業秘密侵害をしてしまったらどうなるのか
    -刑事罰・民事責任・懲戒処分


    営業秘密とは、不正競争防止法上、秘密管理性・有用性・非公知性の3要件を満たす情報をいいます。
    近年、その漏えいは刑事・民事ともに増加しており、警察の検挙件数は約8倍に、相談受理件数は約6倍に増えています。漏えいの8割超は従業員・退職者など内部を通じて起こり、情報を持ち出した側だけでなく、転職者から受け入れた企業や従業員までが処罰された事例もあります。

    本連載「実務家のための営業秘密入門」は、令和5年不正競争防止法改正・令和7年3月改訂の経済産業省「営業秘密管理指針」を担当した黒川直毅弁護士が、基礎からわかりやすく解説する連載の基礎編(全4回)です。

    第4回では「もし営業秘密を持ち出して(あるいは持ち込んで)しまったら何が起きるのか―刑事罰・民事責任・懲戒処分という3つのリスクを確認します。

    第1回:漏らしてもアウト、もらってもアウト -いま「営業秘密」の漏えいリスクが現実になっている
    第2回:そもそも「営業秘密」とは何か -3つの条件と、それ以外の守り方
    第3回:最大の争点「秘密管理性」-求められるのは「鉄壁」ではなく「認識可能性」


    悪質な場合は「刑事罰」

    営業秘密の侵害が悪質な場合には、刑事罰の対象になります。
    個人に対しては、10年以下の拘禁刑、又は2,000万円以下の罰金が科されます(不正競争防止法21条1項・2項)。また、拘禁刑と罰金は両方科されることがあります。営業秘密を日本国外で使用する目的があった場合等には、罰金の上限が3,000万円以下に引き上げられます(不正競争防止法21条4項・5項)。

    実際の裁判例として、懲役5年・罰金300万円が言い渡されたもの(2015年・東京地裁。当時は「拘禁刑」ではなく「懲役」)があります。
    処罰の対象は、行為者個人にとどまりません。その者が所属する法人も処罰され得ます(法人両罰規定(不正競争防止法22条1項))。ただし、いわゆる営業秘密を持ち出された企業は処罰対象ではありません。
    第1回で紹介した回転寿司チェーンの事件では、転職先の法人に罰金3,000万円が科されています。

    企業の実損には「民事責任」

    営業秘密を侵害された企業は、民事上、損害賠償等を請求できます。従業員個人に対して、約10億円の損害賠償を命じた裁判例(2019年・東京地裁)や、約4億円の損害賠償を命じた裁判例(2002年・福岡地裁)もあります。

    加えて「懲戒処分」も

    刑事・民事に加えて見落とせないのが、社内での処分です。営業秘密を持ち出した(あるいは前職から持ち込んだ)従業員は、勤務先の就業規則に基づく懲戒処分を受ける可能性があります。懲戒解雇に至れば、職を失うだけでなく、その後の再就職にも影響しかねません。

    区分 主な内容 実際の裁判例の例
    刑事罰(個人) 10年以下の拘禁刑/
    2,000万円以下の罰金(海外使用等は3,000万円以下)
    懲役5年・罰金300万円(2015年・東京地裁)
    民事責任 損害賠償等 約10億円(2019年・東京地裁)/
    約4億円(2002年・福岡地裁)
    社内処分 就業規則に基づく懲戒処分(懲戒解雇など)

    「持ち込まれた側」も刑事処罰等のリスクを負う

    ここで第1回の「漏らしてもアウト、もらってもアウト-いま「営業秘密」の漏えいリスクが現実になっている」を思い出してください。
    これらのリスクは、情報を持ち出した本人だけのものではありません。転職者から営業秘密を受け取り、これを使用・開示した企業やその従業員も、刑事罰・民事責任の対象になり得ます。法人が起訴されることはないだろうと高をくくることは危険です。第1回でもご紹介しましたが、はま寿司の営業秘密が持ち込まれ、それを使用していたカッパ社は罰金3,000万円という刑事処罰を科されています。
    また、最終的に法人の起訴は免れたとしても、捜査機関によって法人が捜索される可能性は否定できません。現に、楽天モバイルへ転職が決まっていたソフトバンクの従業員がソフトバンクの営業秘密を持ち出した事案では、報道によれば転職先である楽天モバイルが捜索を受けました。また、双日に転職が決まっていた兼松の従業員が兼松の営業秘密を持ち出した事案でも、報道によれば転職先である双日が捜索を受けました。

    中途採用が当たり前になった今、採用する側にも、前職の情報を持ち込ませない仕組みづくりが求められます。


    以上で、営業秘密の基礎、なぜ重要か(第1回)何が営業秘密か(第2回)どう管理するか(第3回)、侵害するとどうなるか(第4回)、を一通り押さえました。
    まずは自社の情報が営業秘密として守れるのかを、この機会にぜひ点検してみてください。


    プロフィール
    黒川直毅(三村小松法律事務所 弁護士・弁理士)
    知的財産、営業秘密保護、不正競争防止法、経済安全保障分野を中心に幅広い企業法務を手掛ける。経済産業省経済産業政策局知的財産政策室室長補佐として4年間勤務し、不正競争防止法の改正や営業秘密管理指針の改訂に携わるなど、立法実務の最前線を経験。法制度の背景や政策目的にまで踏み込んだ高度なリーガルアドバイスを強みとしている。知財訴訟や模倣品対策、情報漏洩対応など、企業の競争力と事業価値の保護を支援する専門家として活躍。


    当事務所では、自社の情報が秘密管理性を満たす形で管理できているか――規程・表示・アクセス制限・誓約書の整合性まで含めた点検をお手伝いしています。
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