【元裁判官弁護士 特別座談会 中編】
元裁判官の弁護士5名が語る「訴訟に強い」法律事務所
——「裁判官」と「弁護士」2つの視点
「この訴訟は本当に勝てるのだろうか」——企業の法務担当者や経営者の多くが、一度はこうした不安を抱えたことがあるのではないでしょうか。外部の弁護士に相談したにもかかわらず弁護士の見通しが甘かったために予想もしなかった敗訴を体験した企業も少なくありません。
三村小松法律事務所には、元裁判官の弁護士が米国裁判所の裁判官経験者も含めると6名所属しています。この記事では、裁判官と弁護士の双方を経験した専門家が、裁判所はどこを見て判断を下すのか、他の法律事務所からも意見を求められる理由はどこにあるのか、「訴訟に強い」法律事務所を支える弁護士たちの座談会形式でお伝えします。
知財以外でも活きる元裁判官の視点
手続き法・立証・伝える力と、前例なきリーディングケースへの対応力
——皆さんの「知財以外」の経験で、企業の相談に活かせることはなんでしょうか?
三村
民事訴訟手続を深く理解している弁護士は意外と少ないと感じています。そういうのは裁判所が決めることだと考えて、弁護士が知っている必要を感じていないのですね。
クライアントにとっては、変な形で訴訟手続を進めたり、無意味な主張をしたりせずに済む、もっと言えば、普通の弁護士は知らないような有効な手続をとることができるなどのメリットがあると思います。企業法務系の大手法律事務所だと相談と契約が中心になることから、訴訟をやっている弁護士が少ないという背景もありますね。
早田
あと、裁判官は和解手続を多く経験していて、和解の見通しが立ちやすいというのもあります。
和解条項は大手事務所でも先例のフォーマットをそのまま引用しているケースも少なくありません。間違いはないですが、ぴったりのものを見つけるのが手間なんですね。和解も契約なので結局、最終的に訴訟にならなければ問題ないのでそのままになっているという。
田原
裁判官の仕事の本質は、判決書を作成することにより、複雑な事案を誰にでも分かるように整理し、伝えることにあります。この力は、そのまま弁護士がクライアントに説明する場面や、裁判所に主張を伝える場面で活きてきます。特に裁判では、合理的な主張を行い、事実関係や技術内容を説明し、それに必要な証拠をそろえることはもちろんですが、それを裁判所が採用しやすいようにできるだけ整えることが非常に重要です。自身が裁判を行っていたからこそ、裁判所が採用しやすいような主張立証を行うことができると考えます。
山田
また、民事訴訟法や民事執行といった手続き法の知識も見逃せません。実は、こうした手続き法を深く理解している弁護士は、意外と多くありません。参考書に書かれている一般論は知っていても、具体的な案件でどう使うかとなると、経験がものを言います。
手続法を知っていることで、たとえば「相手方がこう反応してきたら、こういう手続きを使う余地があるのではないか」といった選択肢を提示できます。変な形で訴訟を進めずに済んだり、相手方の予想しない手続きで局面を有利に運んだりできる。これは一般的な弁護士では思いつきにくい発想であり、クライアントにとって大きなメリットになる場合があります。前例をなぞるだけでは対応できない場面で、手続き法の引き出しの多さが生きてくるのです。
森
裁判例の「読み方」が非常に大切になります。一見すると関係のなさそうな事実関係が、実は判断を左右していることがあります。判決文のどこに着目すべきか、その事案の何が結論を分けたのか、こうした裁判例の読み方ができることも、判決を書いていた裁判官経験者ならではの強みだと考えています。このように、判決の行間を読むことが、次の一手を考える上で役立つのです。
また、訴訟や交渉の現場では、法律論そのものよりも、伝え方や手続の選択、事実の見せ方が結果を左右する場面が数多くあります。裁判官として、あらゆる分野の事件で「分かりやすく整理して判断する」訓練を積んできたことが、分野を問わず企業のご相談に活きると考えています。
——三村先生は前例のないリーディングケースに数多く関わってこられました。ご自身ならではの、企業に対する助言の強みは何でしょうか?
三村
やはり、これまで積み重ねてきた経験に基づいて先を見通す力が最大の武器です。裁判官時代もそうでしたが、弁護士としても新しいものに対して臆せず、新たな法律解釈を提案して問題提起を行ってきました。
裁判所に前例がないからこそ、どう主張を組み立てれば裁判所が判断しやすくなるのかを、裁判官の視点から組み立てられます。音楽教室における著作権使用料をめぐる事件は、その典型例です。前例がない論点では、「裁判所がこの問題をどう捉えるか」を先読みできるかどうかが勝負を分けます。
前例のない事件では、既存の枠組みをそのまま当てはめても答えが出ません。過去にどのような判断がなされてきたか、その判断の背後にある考え方は何か、という蓄積を踏まえた上で、「この新しい問題は、その延長線上でどう位置づけられるか」を構想する必要があります。裁判官として数多くの事件を判断してきた経験があるからこそ、新しい論点でも判断の道筋を描けるのです。
企業が新規事業や新技術をめぐって未知の法的リスクに直面したとき、こうした構想力が大きな支えになると考えています。
事務所全体としても、元裁判官の弁護士が複数揃ったことで、経験値が非常に豊富になりました。若手の弁護士が判断に迷ったときに、日々気軽に相談できる環境があることも、大きな強みだと考えています。「そこまで心配しなくてよい」「ここは慎重に」といった実務的な感覚を、日常のやり取りの中で伝えられます。
加えて、これだけ経験豊富な元裁判官が揃うと、現職の裁判官にも旧知の方が多くなります。相手方とのやり取りや裁判所の訴訟指揮への対応について、実務に即した見立てを立てやすくなるのは、三村小松法律事務所ならではの強みです。前例のない困難な紛争でこそ、こうした経験の蓄積が力を発揮すると考えています。
今後は、中堅世代の裁判官出身弁護士にも加わってもらい、この経験を引き継いでいきたいと考えています。
会社法・行政訴訟・契約に強い理由
会社訴訟、国・自治体との紛争、公証人経験を踏まえた契約段階の助言
——山田先生は会社法・行政訴訟・国側代理を歴任されました。会社訴訟のポイントと、企業が国・自治体や規制と対峙する局面での視点を教えてください。
山田
会社法事件は、株主・役員・M&Aなど、扱う論点が多岐にわたります。近年はアクティビスト、いわゆる物言う株主への対応をはじめ、会社をめぐる紛争が増えており、こうした案件は今後さらに増えていくと見ています。
専門的にこの分野を扱ってきた経験があるかどうかで、対応は大きく異なります。会社法事件専門部の裁判長を務めた経験から申し上げると、当事者間の力関係や、意思決定の適法性といった点が争点になりやすい傾向があります。早い段階で専門家に相談されることをお勧めします。
次に、国や自治体を相手にする場面についてです。「行政訴訟をすべきかどうか?」というご相談を受けることがあります。ただ、行政の分野には規制する法律があり、その枠組みの中で勝ち筋が見えていないと、訴訟に踏み切るのは難しいものです。監督官庁との関係もあり、安易に争えばよいというものではありません。
森
行政訴訟は、民事の法律とは異なる理屈で動いています。この「規律」を理解していないと、そもそも見通しを立てることができません。この違いを理解しているかどうかが、勝ち筋を見極める上で決定的に重要になります。民事の感覚だけで臨むと、思わぬところでつまずくことがあります。企業紛争と行政紛争は、同じ「紛争」という言葉でくくられていても、拠って立つルールが違うのです。
山田
国側の代理人として数多くの行政訴訟や国家賠償を担当した経験は、この点で大きく活きると考えています。国と自治体のどちらを相手にするか、行政訴訟という手段を選ぶべきか否かといった入口の判断から、勝ち筋を見据えて助言できることが、訟務を経験した強みです。規制に対応しなければならない企業にとって、規制の枠組みそのものを踏まえた戦略は欠かせません。国側の内部の考え方を知っているからこそ、相手がどう動くかを見通せるのです。
会社訴訟に話を戻しますと、株主・役員・M&Aをめぐる紛争は、これまで専門的に扱ってきた弁護士がそれほど多くない分野です。会社法事件専門部で裁判長を務めた経験から、どのような主張が裁判所に響き、どのような点でつまずきやすいのかを、内側から見てきました。
特にアクティビスト対応は、株主総会の運営や情報開示のあり方など、平時からの備えが結果を左右します。紛争が顕在化してから慌てるのではなく、あらかじめ想定される争点を洗い出しておくことが重要です。行政と会社、二つの専門部を経験しているからこそ、企業が国と対峙する場面でも、社内の紛争でも、それぞれの「勝ち筋」を見据えた助言ができると考えています。
——山田先生は公証人としても7年間のご経験があります。当事者が契約段階で最も注意すべき点は何でしょうか?
山田
公証人として数多くの契約書や遺言、定款を見てきた経験から申し上げると、「ここは後々揉めそうだ」という箇所が、契約段階で見えてくることがあります。
長年、紛争になった契約書を数多く見てきたからこそ、どこに火種が潜んでいるかがわかるのです。そうした箇所については、当事者双方に「ここはきちんと決めておいてください」とお伝えし、曖昧なまま進めるのを止めるようにしていました。日本語の書き方一つで、解釈が分かれて紛争になることもあります。
どちらの意味にも取れる書き方を避け、揉めないような明確な表現にすること。これが後の紛争を防ぐ最大のポイントです。遺言についても、どう書けば後の争いを防げるか、書き方の助言をしてきました。
ただし、あえて曖昧にしておくという判断がありえないわけではありません。細部を明確にしようとすると、かえって交渉がまとまらなくなることもあります。相手が特定の条件にこだわって交渉が決裂してしまうくらいなら、あえて曖昧なまま契約を成立させる、という選択もありうるのです。問題が実際に起こる確率が低い場合には、細部を詰めずに進めるという判断もありえます。
重要なのは、リスクがあることを理解した上で、当事者自身が判断することです。うっかり曖昧にしてしまうのと、リスクを承知の上で曖昧にするのとでは、全く意味が違います。そこまで見極めた上で助言できることが、公証人経験の強みだと考えています。
契約段階では、当事者はどうしても目の前の合意をまとめることに意識が向きがちです。しかし、契約書は、うまくいっているときには読み返されることのない書類です。実際に効いてくるのは、当事者の関係がこじれたときです。そのとき、文言がどちらの意味にも取れれば、その解釈をめぐって新たな争いが生まれます。
公証人として、まさにそうして紛争になった事案を数多く見てきました。だからこそ、契約の段階で「ここは後で必ず問題になる」という箇所を指摘し、双方が納得できる形で明確にしておくことをお勧めしています。特に、金額の算定方法、期間、解除の条件、責任の範囲といった点は、曖昧さが残りやすい部分です。具体的なご判断にあたっては、専門家へのご相談をお勧めします。
後編では、企業の紛争への備え、裁判所の判断傾向と各種リスクへの対応について引き続き5名の元裁判官弁護士にお話をお伺いします。
前編はこちら
法律相談のご案内
「この訴訟は勝てるのか」「契約書のこの文言で問題ないか」——こうした疑問をお持ちの経営者・法務担当者の方は、ぜひ一度ご相談ください。
三村小松法律事務所では、元裁判官の弁護士が、裁判所の視点を踏まえた見通しをお伝えします。訴訟に強い法律事務所として、紛争が起きる前の予防法務から、実際の訴訟対応まで、幅広くサポートいたします。知財はもちろん、会社法・行政・労働・相続といった多様な分野の紛争について、複数の元裁判官が一つのテーブルで検討し、多角的な助言を差し上げることが可能です。「勝てるかどうか」の見通しを早い段階で立てることは、無用な訴訟を避け、経営資源を守ることにもつながります。まずはお気軽にご相談ください。
ご依頼・お問い合わせはこちら
プロフィール
三村 量一(みむら りょういち)
1977年 東京大学法学部卒業。1979年より東京地方裁判所判事補などを歴任。1981〜1983年 ドイツ連邦共和国ケルン大学に留学。最高裁判所調査官、東京地方裁判所知的財産部裁判長、知的財産高等裁判所判事、東京高等裁判所判事などを歴任。2009年 第一東京弁護士会登録、長島・大野・常松法律事務所パートナー、2019年 三村小松法律事務所を共同設立。法制審議会委員、著作権法学会理事、早稲田大学法科大学院客員教授などを務め、2018年度に知財功労賞(経済産業大臣表彰)を受賞。民事局在籍時に民事執行規則の立案を担当した経験を持ち、知的財産法分野を軸に民事執行法や国際私法にも精通。
山田 知司(やまだ ともじ)
1977年 東京大学法学部卒業。1979年より各地の裁判所に勤務、1993〜1997年 東京法務局訟務部にて国側の代理人(訟務)を担当。東京高等裁判所知的財産専門部判事、大阪地方裁判所の知的財産専門部・会社法事件専門部・行政訴訟集中部や大阪高等裁判所知的財産集中部の裁判長などを歴任、2017〜2024年 公証人を務め、2024年8月 三村小松法律事務所入所。知的財産に加え、会社法・行政訴訟・国側代理(訟務)・公証と、極めて幅広い経験を持つ。
森 義之(もり よしゆき)
1979年 東京大学法学部卒業。1981年より東京地方裁判所判事補などを歴任。1986〜1987年 判事補在外研究員としてイギリスに留学。大阪地方裁判所(行政租税部)、名古屋地方裁判所(行政・知的財産部)、東京地方裁判所知的財産部裁判長などを歴任。最高裁判所調査官、知的財産高等裁判所判事(裁判長)などを務める。2026年 三村小松法律事務所入所。裁判官として長年にわたり、行政・租税・知財・交通など多分野の審理に携わってきた。
早田 尚貴(はやた なおき)
1990年 東京大学法学部卒業。1993年 裁判官任官。東京地裁判事、東京高裁判事、知財高裁判事、最高裁事務総局行政局第一課長などを歴任。1998〜1999年 米国ニュージャージー州上級裁判所などで在外研究。2015〜2023年 アンダーソン・毛利・友常法律事務所スペシャル・カウンセル。2023年10月 三村小松法律事務所入所。労働・一般民事・司法行政(事務総局)・憲法・行政法と、幅広い分野に精通。
田原 美奈子(たはら みなこ)
東京大学法学部卒業。1996年 裁判官任官。京都地裁、東京地裁(交通・労災専門部)、東京家裁(遺産分割専門部)、千葉地裁(医療集中部等)、大阪地裁(知的財産権部)、東京高裁などに勤務。2002〜2003年 弁護士(在仏)、2024年8月 三村小松法律事務所入所。著作権法学会、日本工業所有権法学会、第一東京弁護士会知的財産法研究部会等に所属。知財・交通・医療・相続・コンプライアンスと、幅広い民事分野の経験を有する。
【2026.8.10】
法律相談・メディア出演のご相談はこちら
お問い合わせMiKoTamaメルマガ
法律に関する様々な情報トピックをメルマガで配信
関連記事