【セミナーレポート】 政策形成プロセスの基礎を学ぶ──企業のためのロビイング入門⑵
2025年6月20日、三村小松法律事務所主催のMikotamaセミナー#05「政策形成プロセスの基礎を学ぶ──企業のためのロビイング入門」が開催されました。
前編では、野瀬健悟弁護士が永田町の実務構造や立法プロセス、効果的なロビイングの条件について解説しました。
この記事では、内閣府知的財産戦略推進事務局に出向中(2025年6月時点)の田邉幸太郎弁護士による「行政の立場から見たロビイング」、これまで多くの社団法人の設立を手がけてきた小松隼也弁護士による「業界団体とロビイング」について解説いたします。
目次
行政の立場から見たロビイング
内閣府知的財産戦略推進事務局の構成と役割
田邉弁護士が出向中(2025年6月時点)の内閣府知的財産戦略推進事務局は、知的財産基本法に基づいて設置された知的財産戦略本部の事務局として、国の知財政策を統括・推進する中枢機関です。50名程度の職員で構成され、各省庁と民間企業からの出向者がほとんどです。
こういった官民双方の視点を併せ持つ体制であるからこそ、産業競争力、AI、コンテンツ政策など多様な分野を横断的に結び付け、国の知財政策を具体的に推し進める「知財政策の司令塔」的な役割を担うことができているのであろうと思います。
知的財産戦略推進事務局では、政策分野ごとに専門的な検討を行う会議体が設けられています。
例えば、知財政策全体の方向性を議論する中核的な会議体である「構想委員会」や、映像・音楽・出版・ゲームなどのコンテンツ産業を中心に官民協同で検討を行う「コンテンツ戦略ワーキンググループ」などがあります。このほか、「デジタルアーカイブ戦略懇談会」や「海賊版等対策官民実務者級連絡会議」など、分野横断的な課題に対応する会議体も設けられており、知的財産の利活用から文化発信、権利保護に至るまで、幅広い政策課題を官民連携で検討する体制が整えられています。
これらの会議体での議論や検討成果を踏まえ、内閣府知的財産戦略推進事務局では毎年6月頃に「知的財産推進計画」を作成し、これを国の知的財産戦略本部が決定するということになっていますし、「インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表」「AI時代の知的財産権検討会 中間とりまとめ」なども策定しています。
知的財産戦略推進事務局の日常業務
知的財産戦略推進事務局では主に知財政策の立案や運用に関わる実務を担っています。省庁ごとに違いもあるかと思いますので、あくまで私が知的財産戦略推進事務局で得た経験をベースにお話しします。
日々の業務は本当に多岐にわたり、例えば次のようなものがあります。
- 会議体や検討会の準備、運営、委員へのレク・ヒアリング対応
- 会議資料・公表資料の作成、当該資料についての関係省庁との調整
- 民間企業・団体からの面会要請対応、各種会合・講演への出席・対応
- メディア・各省庁・業界団体からの情報収集
- 大臣・議員対応(答弁案・発言想定・質問対応、各種レク)
- 答弁書の作成(法律改正等を行う省庁や部署であればここに法律案の作成なども入るかと思います)
- 実施したパブリックコメントで得られた内容の確認、検討、整理
行政への働きかけのタイミング
少なくとも私が見た限りにおいて、行政は限られた時間や人員のなかで日々多くの案件に対応しています。企業や団体などからも意見交換などの要請が来ることも多くありますが、そこで寄せられるすべての意見や提案に十分な検討や対応の時間を割けるわけではないと考えます。
行政への働きかけは、いつ、どの段階で行うかによって、受け止められ方やその後の検討の進み方が変わることもあります。例えば、次のような場面が考えられます。
- 行政に問題を認識してほしい段階
「現場ではすでに課題が顕在化していても、行政側が把握できていない」という段階です。この時点では、現場でどのような不都合が起きているのか、課題の所在や影響の程度を整理したうえでの丁寧な情報共有が重要と考えます。議論が始まる前の段階では、最初の情報提供をしっかりと行ってあげることで、その後の行政内部での位置づけや検討の進み方にも多少なりとも影響し得るはずです。
議員を通じたアプローチは有効な手段の一つですが、行政内部で状況整理が進んでいない段階で突然議員案件として持ち込まれると、現場の負担が大きくなり、必ずしも好意的に受け止められない場合もあるように思います。まずは行政に対して現場の実情を伝え、課題として認識してもらったうえで、必要に応じて議員に話をつなぐ方が、その後の検討が進みやすい場面も少なくありません(行政側から、議員の先生に状況は共有しているのかと尋ねられることもあるかと思います。)。
なお、状況によっては、これまで何度も問題意識を伝えてきたものの、なかなか行政側の動きが見えないという場合もあると思います。刻一刻と時間だけが過ぎていき、現場で困っている者からすれば、やきもきする状況かと思います。そういった場合には、議員の先生方に状況をお伝えし、議論の俎上に上げてもらうという判断も必要になることがあると私個人としては考えています。行政側からは、「いまやろうとしていたのに」「また無理な事を言って」などと好意的に受け止めてもらえないこともあるでしょう。ですが、実際に現場で問題が生じ、課題があるのであれば、それはきちんと議論の俎上に上げてもらうべきです。これまで再三説明をすることで、仁義は切っていると考えて踏み切ることも必要です。
- 行政内部で調査・議論が進み始めた段階
調査研究が始まり、審議会・委員会・検討会などで議論が動き出すと、行政内部では論点整理が進み、政策の枠組みが徐々に形づくられていきます。この段階では、制度の方向性は見え始めている一方で、実務上の影響や具体的な運用をどのように整理するかが課題となってきます。
こうした場面では、審議会等の開催予定や配布資料、議事要旨を継続的に確認し、現在どの論点が議論されているのかを正確に把握することが欠かせません。そのうえで、議論の流れに沿った具体的な事例やデータを提供することで、行政側の検討に実務的な補足を加えることができます。傍聴登録の期間が短いケースも多いため、日常的な情報収集を欠かさず行いましょう。
また、この段階ではパブリックコメントが実施されることもあり、正式な意見提出の機会となります。提出にあたっては、自社や一部の立場に偏るのではなく、業界全体や制度全体との関係を意識した整理が求められます
どの府省庁にどのように働きかけるか
既に審議会や委員会、検討会などが設けられている課題については、その会議体を所管・運営している府省庁が基本的な窓口となります。前述のとおり、議論の状況や論点を踏まえた情報提供を行うことが重要です 。
一方で、新たな事象や所管が明確でない課題については、関係しそうな政策分野や制度との関係を整理しながら、正確な窓口を探していくことになります。最初から正確な担当部局に行き着くことを目指すよりも、なぜその府省庁と関係があると考えているのかを示し、情報共有の機会を持つことが現実的です。周囲に出向経験者など、行政の組織構造や実務感覚を理解している人がいる場合は、アプローチ方法について事前に助言を得ることもおすすめです。
行政側の対応窓口として、いきなり局長や次長、課長・参事官などが出てくるというのはなかなか考えにくく、課長補佐・参事官補佐、係長、主査といった実務担当者であることが一般的です。これに対して「決定権を持っていない人が出てきたな……」と捉えて、適当に臨むのは絶対にNGです。決定権を持つ幹部への説明を担っているのはこれらの実務層です。実務層の人にすら理解してもらえていないのに、そもそもその方の上司に説明した内容が正確に届くことは考えにくいですし、上司が出てきたとしても理解は得られないと思います。軽視せず丁寧に説明を行い理解を得る姿勢が重要になります。
なお、行政との対話は、単に要望を伝える場ではなく、社会課題を共有し、制度として形にしていくための協働のプロセスです。行政の立場や業務の実情を理解し、現場と政策の橋渡しを意識する。主張すべき時にはきちんと主張をすべきですが、行政側にとっては負担が増えることであるということを理解する姿勢を意識できると、法務・知財・政策部門に携わる実務家にとっての、建設的なロビイングの第一歩といえるのではないかと思います。
業界団体とロビイング ― 個社の要望を「業界全体の課題」へ
小松隼也弁護士はこれまで、映像・コンテンツ、文化・芸術、技術分野などを中心に、社団法人の立ち上げや運営を支援してきました。個別企業の要望を業界全体の課題として昇華し行政に届ける取り組みに、実務家として数多く携わってきた経験から、今回は「業界団体を通じた政策提案の実務」について語っていただきました。
業界団体を通じた政策提案には、以下のような実務上のメリットがあります。
①一定の公共性を備えた意見として受け止められやすくなる
野瀬弁護士や田邉弁護士の解説のとおり、行政や議員が政策を検討する際には、「業界全体にどの程度の影響があるのか」「どれだけの事業者・人員が関係しているのか」が重要な判断材料になります。
一企業としての提案ではなく、業界団体として提案することで、業界全体の売上規模や関係人数を提示できることで、提案の説得力が大きく変わります。
②実務負担を分担できる
政策提案には、資料作成、関係者間の調整、事務局機能の整備など、人的・金銭的な負担が発生します。
業界団体という枠組みを用いることで、こうした負担を個社で抱え込むのではなく、関係者間で合理的に分担することが可能になります。
③政策が具体化した後の「受け皿」となり得る
行政施策が事業として実施される場合、業務委託等の形で民間側の実施主体が求められることがあります。業界団体が存在していれば、その受け皿として機能し、政策と現場を継続的につなぐ役割を担うことができます。
④制度の運用・実装に関与できる
資格制度や登録制度の運営、プラットフォームの整備など、制度の具体化に関与できる点も、団体ならではの特徴といえます。単に要望を伝えるにとどまらず、制度の実装段階まで視野に入れた関与が可能になる点は、行政側にとっても実務的な価値があります。
このように、業界団体は、政策提案の説得力を高めるだけでなく、政策形成後の実行段階までを見据えた実務的な基盤として機能します。小松弁護士は、こうした点を踏まえ、団体内での意見集約の方法や、行政・議員それぞれに向けた説明の整理を含め、実務面からの支援を行っています。
おわりに
ロビイングを実効的なものにするためには、要望の内容だけでなく、行政側がどのような情報を必要としているのか、どの段階でどのように伝えるべきかを意識することが重要です。現場で生じている課題を、行政内部で検討しやすい形に整理し、必要に応じて業界全体の課題として示していくことで、政策提案の説得力は大きく変わります。
また、業界団体は、個社では示しにくい公共性や影響範囲を可視化し、政策形成後の実行段階までを見据えた基盤としても機能します。行政との対話を一過性の要望活動で終わらせるのではなく、制度の設計や運用につながる継続的な関係づくりとして捉えることが、建設的なロビイングの第一歩といえるでしょう。
本記事が、行政との向き合い方や、業界団体を通じた政策提案のあり方を考える一助となれば幸いです。
ロビイング支援パッケージについて
三村小松法律事務所では、ロビイングに関する専門的なリーガルサービスを提供する「ロビイング支援パッケージ」を開始いたしました。
「自社として何をどのように伝えればいいのか分からない」「政策提言をしたいが、適切な議員とのつながりがない」といったご相談にも、段階に応じた伴走支援をご提供します。
ご関心のある方は、ぜひお気軽に当事務所までお問い合わせください。
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