【エンタメロー海外編 / セミナーレポート 後編】
エンタメコンテンツ海外展開のリアル ― アプリ・映像・ゲームビジネスの国際対応―
海外展開を検討する際、「どの国の法律に対応すればいいのか」「現地の規制に違反したらどうなるのか」と頭を抱える法務・総務ご担当者は多いのではないでしょうか。
特にエンタメコンテンツの分野では、プライバシー・未成年保護・著作権・商標など、複数の法的リスクが複雑に絡み合います。日本国内では一般的な表示やサービス設計であっても、海外では規制対象となったり、現地当局・プラットフォーム・ユーザーとのトラブルにつながったりすることがあります。
2026年4月21日に開催された、三村小松法律事務所主催のMIKOTAMAセミナー#08「エンタメコンテンツ海外展開のリアル ― アプリ・映像・ゲームビジネスの国際対応―」では、海外展開戦略に詳しい久勇介弁護士と長谷川未緒弁護士が、海外へのデジタルコンテンツ展開時の主要な規制と実務対応について解説を行いました。
本記事では、セミナー内容をもとに、アプリ・ゲーム・映像コンテンツの海外展開に共通する実務上の注意点と、海外法律事務所を活用する際のポイントをご紹介します。
前編はこちら
目次
コンテンツ海外展開に共通する主な課題 ―ローカライズ・ライセンス設計・ブランドコントロール
① ローカライズ(字幕・吹替)の問題
海外展開では、作品を現地のユーザーに届けるために、字幕・吹替などのローカライズ対応が重要になります。
特に、英語が広く使われていないアジア圏への展開では、現地語の字幕・吹替素材の制作がコンテンツの普及を大きく左右します。英語圏であれば英語の字幕・吹替を一本用意すれば対応できる場合が多いですが、タイ語・ベトナム語・インドネシア語など多言語への個別対応のニーズが高いアジア圏では、国ごとに制作することが前提となるため、字幕・吹替素材を誰がどのように準備するか契約段階で整理しておくことが重要です。
字幕・吹替の制作アプローチには大きく2つの選択肢があります。
(1)現地のライセンス先に制作を委託する場合
現地のライセンス先に字幕・吹替素材の制作を任せ、日本側がそれらの制作費の負担をしないという合意に至った場合、制作費のコストを抑えられるというメリットがある一方、問題となりやすいのがクオリティのコントロールです。日本のようにアニメ・映像文化が成熟している国ばかりではないため、声優の演技や翻訳のトーンが日本側の期待する水準に沿わないケースも起こりえます。また、現地語にどのようなニュアンスで翻訳されるかを、日本側が十分にコントロールしきれないという問題もあります。
さらに、品質管理とは別に、契約終了後の素材の扱いも問題になりやすいポイントです。たとえば、ライセンス先をA社からB社に切り替えた場合に、A社が制作した字幕・吹替素材などをB社でも使えるのか、という点は実務上問題になります。
そのため、現地のライセンス先に制作を委託する場合は、以下の3点を契約書に盛り込んでおくとよいです。
- 翻訳内容・声優キャスティングについて日本側が監修できるか、最終決定権があるか
- 契約終了後の素材の扱い(返還・削除・利用停止など)
- 映像作品の権利者である日本側が、他社へ転用できるか
これらを後から交渉しようとすると、すでに素材が流通した後では交渉力も下がります。ローカライズを伴うライセンス契約では、契約を締結する段階で、将来的な利用まで見据えて条件を盛り込んでおくことが肝心です。
(2)日本側で制作して現地に貸与する場合
日本側の権利元が字幕・吹替素材を制作する場合、クオリティの管理はしやすくなります。ただし、制作コストが日本側の負担になることが多く、ライセンス先に費用の一部を負担してもらう場合は交渉が必要になる場合もあります。また、対象言語によっては、日本国内で字幕・吹替制作を請け負う会社を確保できるかという、実務上の課題もあります。
どちらのアプローチが適切かは、対象コンテンツのローカライズの重要度・ライセンス先との力関係・予算のバランスによって変わります。いずれにしても、この判断を後回しにしたまま契約を進めてしまうと、後でトラブルになりやすいです。
② ライセンス期間・範囲の設計
終了後の処理を最初から決めておく
ライセンス契約で見落とされがちなのが、「ライセンス期間が終わったあと何が起きるか」という視点です。コンテンツは会社にとって長期にわたる財産であり、あるライセンス先との契約が終了しても次の展開に活かしていく必要があります。そのため、契約終了後の処理まで見据えて、開始時から契約内容を設計しておくことが重要です。
例えば、キャラクターグッズや商品の製造・販売に関するライセンスを付与していた場合、契約終了時に現地に在庫が残ることがあります。その在庫を処分するのか、一定期間の販売継続を認めるのか、販売継続を認める場合にロイヤリティをどのように精算するのかといった終了後の細かい取り決めを、あらかじめ契約書に定めておくことが望ましいです。
「地域」だけでなく「言語」「プラットフォーム」まで指定する
デジタルコンテンツの場合、ライセンス対象地域だけを限定しても十分に実効性がない場合があります。例えば、「A国のみ」という地域限定のライセンスを付与したとしても、記載ぶりによっては「Youtube等のグローバルプラットフォームに対してA国内からの配信することも可能」と解釈できます。アクセス可能な地域の制限、言語やプラットフォームの指定がなければ、A国のライセンシーが英語版コンテンツをグローバルプラットフォームにアップロードした場合、A国以外からも容易に視聴可能になってしまいます。その状態で後にB国に独占ライセンスを付与しようとすると、A国の当該コンテンツ利用との関係でB国における独占的なライセンスも成立しないという問題が起こります。
そのため、デジタルコンテンツのライセンス契約では、単なる地域に限らず、言語や配信プラットフォームという観点からもライセンス範囲を具体的に特定することが基本となっています。
③ ブランドコントロール(監修の機会の確保)
現地展開では広告宣伝も重要な要素です。コンテンツによっては、ポスター・SNS投稿用の切り抜き素材・インフルエンサーへの提供素材などの広告物に対して、事前に日本側の権利元が監修をした上で制作・掲載してもらうことを条件に入れ込んでおくことが理想です。
現地に任せきりにすると、リリースのタイミングがバラバラになったり、日本側が意図しない訴求方向で売り出されてしまうこともあります。そのため、現地でどのような広告素材を制作・使用できるのか、日本側がどの段階で確認できるのかを、あらかじめ整理しておくことが重要です。
また、広告素材や映像データを現地に貸し出す際には、どこまでの関係者がアクセスできるかを明確に定め、情報漏洩・データ流出のリスク管理まで契約に含める場合もあります。
エンタメ弁護士が教える「海外法律事務所」の費用管理
費用を賢く管理するための3つのポイント
(1)質問を練ってから依頼する
現地法の調査を「とりあえず教えてください」という形で漠然と依頼すると、関連する規制だけを列挙した10ページ近いメモが返ってくることがあります。多くの費用がかかった割に「で、自分たちは実際に何をすればいいのか」がわからないという結果になりがちです。
海外法律事務所に依頼する前には日本の顧問弁護士とあらかじめ自社サービスで特にリスクになりそうな点を整理した上で、具体的な質問に絞って海外法律事務所に依頼すれば、不要に広い調査を避けることができ、トータルの費用が抑えられることもあります。
(2)見積もり超過の際の対応
海外案件では、最初に提示された見積もりを実際の請求額が大幅に上回るケースがあります。2〜3倍になることも稀ではありません。しかし、そのような場合でも申し出れば「ライトオフ(減額)」に応じてくれる事務所は多いです。
日本の顧問事務所を経由していれば、この交渉を弁護士同士でやり取りしてもらうことができ、精神的な負担も大きく減ります。見積もり超過が起きたときに黙って支払うのではなく、まず事務所に確認するという習慣をつけておくことが重要です。
(3)ヨーロッパはリスク許容度に応じて優先順位をつける
ヨーロッパ展開では、EUのGDPRやUK GDPRだけであれば対応しやすいですが、各国の異なる消費者法(クーリングオフ規制、キャンセル規制など)まで網羅しようとすると、調査費用だけで数百万〜1,000万円近くになる場合もあります。そのため、ヨーロッパがメイン市場でない場合は、ビジネス上の重要性や想定されるリスクの大きさを踏まえて、対応範囲に優先順位をつけることが現実的な対応です。
ただし、未成年保護・成人向けコンテンツ・ソーシャルインタラクション機能など、規制が特に厳格な要素が自社サービスに含まれる場合は、より慎重に対応する必要があります。この点は国や地域を問わず共通して意識しておくべきポイントです。
ネーミングと商標調査は「出す前」に必ず確認する
実務上見落とされがちなのが、サービス名・作品名の海外での受け取られ方と商標の事前調査です。
日本語をそのままローマ字表記にしたとき、英語圏で不適切な意味になってしまうケースは珍しくありません。また中国語・繁体字圏では、英語名や日本語名を現地メディアが独自に漢字表記することがあります。サービスをリリースする前に、現地のネイティブスピーカーやパートナーにネーミングの受け取られ方を確認しておくことが重要です。
商標についても、サービスを出す前に調査を行うことが原則です。サービスが軌道に乗ってからその名称が他社にすでに登録されていたことが判明し、サービス名の変更やライセンス取得の交渉を迫られた場合のコストは、事前調査にかかるコストと比べて格段に大きくなります。特に中国については、冒認出願の問題があるため、マーケティングを開始する前の早期出願と、その後の定期的なモニタリングが特に重要です。
セミナーQ&A
広告制作・契約交渉で迷いやすいポイントここまで、ローカライズ、ライセンス期間・範囲の設計、ブランドコントロール、海外法律事務所の活用、ネーミング・商標調査など、海外展開に共通する実務上の注意点を整理してきました。
セミナー後半のQ&Aでは、グローバル広告における俳優組合対応や、海外企業との契約交渉で問題となりやすい日本式の「別途協議」の扱いなど、海外展開の現場で判断に迷いやすいテーマについても質問が寄せられました。以下では、後編のテーマに関わるQ&Aを抜粋してご紹介します。
グローバル広告におけるSAG-AFTRAへの対応
Q:SAG-AFTRAへの対応の留意点は何ですか?
A:俳優組合が定める雛形や規定を遵守しなければならない場面が多く、対応が難しいケースもあります。ただし、俳優組合に加入していないアーティストを活用するという選択をする会社もあり、案件に応じて柔軟に対応することが一つの方策でしょう。
実際の事例として、グローバルに使用する広告において、広告主の指定により組合未加入の出演者を選定するケースも出てきています。本来は俳優を守るための組合ですが、実際の現場では「組合を避ける」という対応が現実的な選択肢となっている側面もあり悩ましいです。
海外契約における「別途協議」条項の扱い
Q:日本では商慣習として「細かい条件は進めながら決めましょう」というケースもありますが、海外ではどうですか?
A:英文契約書、特にアメリカやヨーロッパ準拠の契約では、ビジネス条件のすべてを契約条文に盛り込むことが一般的とされています。日本の契約書でよく見られる「別途協議する」という文言は、英文契約書では用いないことが多いです。
ライセンス契約においても、どの範囲でライセンスを許諾するか、どのような形で収益分配を行うか、経費の算入範囲をどうするかなど、細部まで契約書に明記しておかないと、相手方に有利な解釈をされるリスクがあります。海外企業とのライセンス契約や商品化契約を締結する際は、弁護士に依頼して契約内容を精査することを強くおすすめします。
相手方に都合よく解釈されて、想定外の形で本来得られたはずの利益を得ることができないという結果を避けるためにも、ビジネス条件を契約書上で明確かつ具体的に取り決めておくことが海外展開時の契約における基本的な姿勢となります。
登壇者
久勇介(ひさし ゆうすけ)
米国Cardozo School of Law留学後、米国法律事務所に勤務。
日本企業の米国進出支援、コンテンツのライセンス契約交渉、海外展開戦略サポートを中心に手がける。
現在は、ゲームおよび映像コンテンツの海外展開支援を主軸に、未成年ユーザー保護やプライバシー法など、デジタルコンテンツを取り巻く関連規制分野のリーガルアドバイスも提供。日米間の法制度の違いを踏まえた実務的なサポートを強みとする。
長谷川未織(はせがわみお)
動画配信プラットフォーム「Hulu」を運営する企業の社内弁護士を務め、コンテンツのライセンス契約、制作契約など幅広い契約実務とアプリ事業に関する規制対応を担当。現在は、映像・音楽などのデジタルコンテンツ分野の案件を中心に、国際的なコンテンツビジネスに関する契約・権利処理・規制対応を含む法務アドバイスを提供している。
お悩みの前に、お気軽にご相談ください
「自社のアプリ・ゲームが海外で法的に問題ないか確認したい」「利用規約・プライバシーポリシーを海外展開向けに整備したい」「コンテンツのライセンス契約を弁護士にレビューしてほしい」—そんなお悩みがあれば、まずは三村小松法律事務所の弁護士にご相談ください。
三村小松法律事務所には、アプリ・ゲーム・映像・音楽などのエンタメ/デジタルコンテンツ分野の海外展開に精通した弁護士が所属しています。海外取引先との英語での契約交渉、事業スキームの構築、契約条件の整理、紛争対応まで、コンテンツビジネスの実務に即したリーガルサポートを提供しています。
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