ニューヨーク在住のエンタメロー弁護士が語るグローバル法務の最前線
エンタメ×海外展開の法律実務(前編)
目次
【インタビュー/久勇介弁護士】
三村小松法律事務所に所属しながらニューヨークを拠点にエンタメ×海外展開案件を手がける久勇介弁護士。経済産業省模倣品対策室への出向、スポーツ動画配信大手DAZNでのインハウス経験、ニューヨーク・ロースクールへの留学、カリフォルニアのエンタメ特化ブティック事務所での実務を経て、現在は日米双方の法制度に精通したエンタメ弁護士としてクライアントの法務を支援しています。
本記事では、久弁護士にこれまでのキャリア形成や現在の実務内容に加え、日本企業が海外展開を進める際に直面しやすい法務上の課題についても話を伺いました。
経産省・DAZN・NYロースクール・海外ブティック事務所
―エンタメロー弁護士が「必然の寄り道」で磨いた専門性
―現在に至るまでのキャリアの流れを教えてください。エンタメ弁護士を志したのはいつ頃からでしょうか?
弁護士になったときから、エンタメ案件をやりたいという気持ちはずっとありました。ただ、いきなりエンタメ特化のブティック事務所に縁があったわけではなかったので、まず一般民事と企業案件を両方扱う総合系の事務所に入所しました。そこは幅広い案件を通じて弁護士としての基礎体力を養えたという意味で、振り返ればとても良い経験を得られました。
その後、経済産業省の模倣品対策室に出向しました。エンタメと切り離せない知的財産に加えて、グローバルな案件に興味があったことが動機です。主な業務は、海外での模倣品対策と、オンラインプラットフォーム上に知的財産侵害品や違法品が出た際の対応策の検討でした。日本企業が海外進出するときに何に気をつけるべきかを整理しながら、同時にプラットフォーム側がどう対策するかという政策立案にも関わりまして、国内と国際の両方の視点を得られたこの経験は、今でも直接役立っています。
出向後は留学するつもりでいたのですが、コロナで延期になりました。その間に、スポーツに特化した動画配信サービスのDAZN(ダゾーン)社のインハウスとして参画する機会をいただきました。同社のヘッドクォーターはイギリスにあり、日本にも法務部はあったものの、日本法を管掌とするインハウス弁護士がいなくて法務を外注していた状況に日本法弁護士の一人目として加わった形です。野球やJリーグのライセンス契約のサポートをしながら、イギリス本社からくる新サービスを日本法に沿ってローカライズする作業が主な仕事でした。日英の法律の差異をどう実務に落とし込むかという経験は、今の仕事の土台になっていますね。
―留学先にニューヨークのカルドーゾ・ロースクールを選ばれた理由は何でしょうか?
正直に言うと、昔からブロードウェイが好きだったのでニューヨークに行きたいという気持ちがまずありました。知的財産専攻でいくつかのロースクールに出願したのですが、カルドーゾは日本人留学生が少なかったこと、そしてLLMプログラムの人数自体が少なく、サポート体制が手厚かったことが決め手になりました。大きいロースクールだとLLMの学生も大勢いるので、どうしても一人ひとりへの目配りが薄くなる。カルドーゾはそういう意味で環境が良かったです。
―留学中に特に印象に残っていることはありますか?
特に印象に残っているのは「テック・リーガルクリニック」への参加です。ニューヨークのスタートアップや中小テック企業から相談が寄せられ、教授のサポートのもとで学生が主体となって対応するプログラムで、商標出願のサポートや契約書のチェックなど、実際のクライアントの案件を責任を持って扱います。
大人数のロースクールではLLM学生にこういった機会はなかなか回ってこないので、貴重な経験でした。実務感覚を維持したまま留学を終えられたことは、卒業後に現地事務所へ移る上でも大きかったと思います。
―留学後はカリフォルニアのGamma法律事務所で日本プラクティスとエンタメ案件を担当されたとのことですが、その事務所にはどのような経緯で入られたのですか?
日本の大手事務所のように留学後の出向先とのコネクションがあったわけではないので、日本プラクティスとエンタメの両方を旗印にしている事務所を自分で調べて、直接メールを送ったりLinkedIn経由でつながりを辿ったりしました。「今は採用枠がないけれど、もしかしたら」と受け入れてくれる事務所も意外と多くて、アメリカはそういう個人の積極的なアプローチをサポートする文化があるなと感じました。
実際、日本プラクティスとエンタメを両方打ち出している事務所というのは、アメリカでもかなり少なくて、エンタメ案件を扱う日本の事務所はいくつかあっても、それを明確に前面に出しているとなると、当時はGamma法律事務所くらいだったと思います。
ちなみに、事務所のヘッドクォーターはサンフランシスコにありましたが、「リモート勤務をさせてもらえないか?」と交渉してニューヨーク勤務を認めてもらいました。ブロードウェイのある街から離れたくなかったというのが本音ですが、後にニューヨークオフィスができて、事実上その一人目という形になりました。日本企業の海外進出案件と、ゲーム・アプリ・映像作品のライセンス契約を組み合わせて扱える環境は、私がやりたいことに非常に合致しており、良い経験を積むことができましたね。
―その後、三村小松法律事務所への入所を決めた理由を教えてください。
小松弁護士とは7〜8年来の付き合いがありまして、「Arts and Law」という、芸術と法律をつなぐコミュニティの場で知り合い、以来継続的に交流を重ねてきました。
三村小松を選んだ直接の理由は、訴訟の知見を補いたいと感じていたからです。私はこれまでエンタメ・知財の案件を数多く扱ってきましたが、経験のほとんどは契約交渉の場面で、訴訟は多くありませんでした。海外案件が増えるにつれて、「訴訟になった場合にどうなるか」という見通しを示せる力が必要だと痛感していたんです。
三村小松はウェブサイトのトップページにあるように、「知財」「海外」「訴訟」に強みがあり、元裁判官の弁護士が複数います。この点が非常に魅力でした。実際に入所後、アメリカのクライアントから「日本法上の契約に問題が生じた場合、訴訟になったらどのような見通しになりますか?」という相談を受けた際、元裁判官の弁護士と連携することで的確な回答を返すことができました。私の強みである海外エンタメ案件の経験と、事務所が持つ訴訟・知財の厚みが相乗効果を生んでいると実感しています。
もう一つ大きかったのは、分野ごとに精通した弁護士が揃っている点です。エンタメやファッションの世界には法律以外に業界慣行のようなものがあって、「レベニューシェアの相場が何パーセントか」といった情報は法律の本には書いてありません。案件を積み重ねてきた弁護士にしかわからない感覚です。映像・ファッションなど各領域に深い知見を持つ弁護士が事務所内にいて気軽に相談できる環境は、クライアントへのサービス品質に直結しています。

ゲーム・アプリの海外展開で注意すべき3つの落とし穴
―商標・仕様規制・AI条項
―現在の主な業務内容を教えてください。企業からはどのような相談が多いですか?
定常的に入ってくるのは、ライセンス契約のレビューやドラフティングです。ゲームやアプリ関連の案件が多く、海外展開に伴う利用規約やプライバシーポリシーの作成も絶えずあります。リピートしてくださるクライアントが多い領域です。
案件の核心は日本のゲーム・アプリ企業の海外展開支援です。アメリカやヨーロッパの規制に対応した仕様設計のアドバイスから、海外パブリッシャーとのライセンス契約の交渉・レビュー、利用規約・プライバシーポリシーの現地語版作成まで幅広く手がけています。
近年特に増えているのが海外展開先における規制対応の相談です。プラットフォームやアプリを取り巻く規制が世界中で複雑化していて、日本の法務部門が最新動向を追いきれないケースが増えています。特に「未成年保護」はホットな領域です。例えば、オーストラリアは2025年末から16歳未満のソーシャルメディア使用を禁止しましたが、ゲームにはユーザー同士がコミュニケーションできる機能が組み込まれているケースが多いため、「自社のゲームは対象になりますか?」という相談が来るんです。ヨーロッパも年齢確認・未成年保護の規制強化が続いていますし、アメリカでは13歳未満から個人情報を取得する場合に親の同意を義務づける規制があって、アプリの設計そのものに影響します。
それから、eスポーツ関連も増えています。大会の規約作成から、未成年プレイヤーの参加条件の整備、保護者同意のフロー設計まで。eスポーツは若年層のプレイヤーが多い競技なので、法的に丁寧に組み立てる必要があります。
また、インディーゲーム・インキュベーション・プログラム「iGi」の法務メンターも務めています。国内のインディーゲーム開発者が海外パブリッシャーと契約に進む際の法務相談を個別に担当する役割です。英文の出版契約は難易度が高く、続編やスピンオフに関する条項の扱いを誤ると後々大きな縛りになるので、そういった実務的な相談に乗っています。
―普段、海外にいる立場から、日本のエンタメコンテンツの海外展開の現状をどのように見ていますか?
明らかに盛り上がっています。ニューヨークでは毎年「Anime NYC」というアニメ、漫画、ゲームなどのファンが世界中から集まるイベントが開催されていて、入場者数が年々増えています。ロサンゼルスの「Anime Expo」も同様です。かつてはアニメというと一部のコアなファン層の文化というイメージがありましたが、今は「クール」として広く受け入れられている。私が肌で感じる変化は明確です。
食文化もそうですね。おまかせスタイルの日本食がニューヨークで人気になっていますし、抹茶はカフェのメニューとして定番になりました。ストロベリー抹茶ラテのようなローカライズ版が広まって、それをきっかけに本物の抹茶に興味を持つ層も増えている。日本のコンテンツや文化が入口になってビジネスが派生していく構図が各分野で見られます。
私のもとに来る相談でも、ゲーム・アプリだけでなく、伝統工芸品の海外販路開拓やコスメブランドの越境ECに伴う規制対応が増えています。日本製品の品質への信頼は揺るぎないので、現地規制をクリアして適切に見せ方を整えれば受け入れられる土壌は十分にある。そういう手応えを感じています。越境EC関連のご相談が多いですが、現地に法人を設ける本格進出のケースもあります。どちらの形で進めるかという設計段階から相談いただくことも増えてきました。
―日本企業が海外展開する際に、よく見落とされているリスクや落とし穴はありますか?
まず商標です。日本で使っているサービス名やゲームタイトルをそのまま海外で使おうとすると、すでに商標が取られているケースがある。「日本で有名だから大丈夫」という意識があるのかもしれませんが、海外では全く別の話で、名称変更を余儀なくされるというのは痛いケースです。
次にアプリ・ゲームの仕様です。利用規約やプライバシーポリシーは弁護士に相談するケースが増えてきましたが、アプリ内の仕様そのものに規制がかかっていることを見落としがちです。年齢確認の仕組み、ゲーム内ガチャの設計、購入ボタンの表示方法など、各国・各州でかなり細かい規定があります。日本向けに作ったUIをそのまま持っていくと引っかかるケースが多い。法的文書はチェックされても、仕様面は忘れられやすい。ここは意識して目を向けてほしい部分です。
それから、最近はAIの利用と契約書への反映でしょうか。映像作品やゲームでAIを活用するケースが増え、契約書にAI使用の有無を明示することや、ディープフェイク禁止条項を盛り込むことも増えてきています。生成AIで制作された素材の権利帰属の整理も実務上の課題として出てきました。アメリカ・欧州は立法・判例の動きが速く、常に最新状況を把握しておく必要があります。
共通して言えるのは、これらのリスクはいずれも「展開前」に対処できるものだということです。問題が顕在化してからでは対応コストが一気に跳ね上がります。事業の設計段階から法務の視点を入れることを強くお勧めします。
後編では、インハウス経験を踏まえた「法務部門と外部弁護士の関係」「外部弁護士活用の実践的なコツ」について引き続き久弁護士にお話をお伺いします。
プロフィール
久 勇介(ひさし ゆうすけ)
都内法律事務所、経済産業省模倣品対策室、DAZN Japan Investment合同会社を経て、カルドーゾ・ロースクール(ニューヨーク)にてLLM取得。カリフォルニアのエンタメ・日本プラクティス特化事務所勤務を経て現職。ニューヨーク在住。ゲーム・アプリ・映像コンテンツの海外展開、知的財産、ライセンス契約を専門とする。iGi(インディー・ゲーム・インキュベーションプログラム)法務メンターも務める。
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