【ファッションロー / セミナーレポート】
ブランドと海外のセレクトショップ間の契約実務 ~良好な関係を築くための契約条件と交渉のポイント~(後編)
2026年4月13日、三村小松法律事務所主催のMikotamaセミナー#07-2「ファッションブランドと海外のセレクトショップ間の契約実務 ~良好な関係を築くための契約条件と交渉のポイント~」が開催されました。セミナーでは、ファッションブランドのデザイナーとCOOをゲストに迎え、実際のトラブル事例を踏まえながら、契約交渉の必要性と具体的なポイントについてご説明しました。
登壇者
サカイ カナコ 氏(ファッションブランド「KANAKO SAKAI」デザイナー)
2022年春夏コレクションでデビュー、翌年2023年にJFWネクストブランドアワード受賞。
ニューヨーク留学中に小松弁護士と出会い、ブランド立ち上げ時から継続的に法務サポートを受けている。
石川 崇 氏(「KANAKO SAKAI」COO)
同ブランドの生産管理・ブランド運営全般を担当。
小松 隼也(三村小松法律事務所代表弁護士)
企業法務、知的財産、訴訟など様々な分野の案件に携わっており、2015年にニューヨーク・フォーダム大学ロースクールにてファッションローを専攻。
帰国後はファッション、アート、建築、デザインなどクリエイティブ分野の法務を取り扱い、現在200社以上のアパレル企業をサポートしている。
ファッションブランドが海外展開を進める際、多くの法務・総務担当者が直面するのが「海外セレクトショップとの契約書」の問題です。「英語の契約書を読んでも理解できない」「どこが危険な条項なのかわからない」「交渉できる範囲がわからない」といった悩みは、ファッション業界に特化した弁護士に相談することで、実は多くが解決できます。
本記事では、セミナー後半で実施された参加者とのQ&Aセッションで寄せられた、現場の実務に即した具体的な質問について、トラブルへの対策のポイントをご紹介します。
前編・中編はこちら
目次
契約書ひな形の準備と先出しのメリット
Q:自社の契約書ひな形を作った場合、こちらから先に送るべきですか?
自社の契約書ひな形を用意することは非常に推奨されます。先方からひな形が送られてくる前に自社のひな形を先出しすることで、交渉の主導権を握りやすくなります。
自社側が過度に有利な内容にする必要はありません。当然のことが書かれているシンプルな内容であれば、先方も大きく抵抗することはないはずです。
内容として盛り込んでおくべきなのは、トラブルを防ぐために本来あって然るべき条件 —デポジット、解除条件、遅延損害金、商標登録の禁止、準拠法と管轄— といった項目であり、上から目線の内容にする必要はありません。2ページ程度のシンプルな構成で十分です。
また、英語版の自社ひな形を用意していないブランドも多いかと思いますが、専門家に依頼して作成しておくことをお勧めします。ブランドごとのパワーバランスや業界の温度感に応じた調整も含めて、一度整えておくと長く活用できます。
既存取引に契約条件を導入する際の注意点条項
Q:すでに何シーズンも取引しているのに契約書を交わしていない場合、今からでも送っていいですか?
取引が始まってから何シーズンも経過しているにもかかわらず、契約書を一度も交わしていないというケースは決して珍しくありません。
結論から申し上げると、今からでも契約書を送ることは全く問題ありません。正式な契約書を送るという方法もありますし、先ほど本編でご紹介したオーダーシートに重要な条件を記載して次回の発注から適用するという方法も有効です。
ただし、いきなり何の前置きもなくオーダーシートを送ると、先方が戸惑う可能性があります。特にデポジットの条件が変わる場合には、なおさら注意が必要です。今後の取引においてこのような条件でお願いしたい旨を丁寧に伝えながら、変更の経緯や理由をさりげなく添えた上でご案内するのが望ましいやり方です。
セールスエージェントを通じた発注時の契約実務
Q:セールスエージェントが間に入っている場合の契約はどう進めればよいですか?
海外展開において、セールスエージェント(販売代理人)を通じて発注を取ってもらうケースは多くあります。この場合、エージェントが主導して発注を進めていくため、契約書の締結がどうしても後回しになりがちです。
対応としては、主に2つの方法があります。
一つは、セールスエージェントにオーダーシートを事前に渡しておき、発注の際にそれを使ってもらうという方法です。もう一つは、エージェントが取ってきた発注とは別に、ブランドとセレクトショップの間で直接契約を締結するという方法です。
受発注をシステムで管理しているケースでは、そのシステムとは別に契約を結ぶのが現実的です。セールスエージェント経由であっても、ブランドとして最低限守りたい条件については、契約を通じて確保しておく必要があります。
ただし、新規の取引先に対して最初から正式な契約書の締結を求めると、業界の温度感として少し重たい印象を与えてしまうこともあります。そのような場面では、オーダーシートに必要な条件を盛り込む方法が実用的です。使い分けながら対応していくのが現実的な進め方です。
未払い・倒産リスクへの備え
Q:最近の業界動向について— 未払い・倒産リスクの増加と新たな取引形態の台頭について何かトピックはありますか?
ここ2〜3年で特に顕著に増えているのが、代金が回収できないまま相手方が倒産してしまったというご相談です。
倒産や民事再生の手続きに入ってしまうと、法的な枠組みの中で債権者が一律に扱われることになります。具体的には、世界中の未回収債権をすべて申告し、回収可能な資産と合計額を照らし合わせた上で、比率に応じて分配されるという手続きです。
手元にある資産が申告総額の10分の1にも満たないことが珍しくなく、実際に回収できるのは1〜2%程度にとどまるケースもあります。倒産の情報がブランド側に届いた時点では、すでに手続きが始まっており、個別の対応はほぼ不可能です。全員公平に扱うというのが法的手続きの原則であるため、その枠の中で粛々と動くしかない状況になります。
これを防ぐための唯一の現実的な手段が、デポジットの設定とキャッシュオンデリバリーです。デポジットを設定しておかなければ、倒産という事態が発生した際に回収手段がなくなってしまいます。この点は、本編でも繰り返し強調した通りです。
独占ディストリビューション契約のリスク
Q:新たなリスクとして注目される「独占ディストリビューション契約」とは?
近年、セレクトショップや大手PRマーケティング会社が「独占ディストリビューターになりたい」という提案を持ちかけてくるケースが増えています。特に韓国や中国でその動きが目立ちます。
こうした提案の内容は、ブランドとセレクトショップの間に入って一括で商品を買い取る、あるいは生産から販売まで一手に引き受けるというものです。実質的にはライセンス契約に近い形態であり、ブランドとしては一定の規模とプロモーション力を持つパートナーを得られるというメリットがある反面、リスクも非常に大きくなります。
このような取引において特に注意すべきポイントは、以下の通りです。
- 掛け率(仕入れ価格の条件)が強気に設定される
プロモーション力を武器にして、有利な仕入れ条件を求めてくるケースが多くあります。実際に販売力が高いため売上が伸びることもありますが、その分ブランド側の利益率は圧迫されます。 - 独占性が強く、契約終了時の制限が厳しい
通常のセレクトショップとの取引に比べて、独占条項の範囲が広く、かつ契約終了後の制限も厳しく設定されることが一般的です。一度契約を結ぶと、その国や地域での他の販路が長期間にわたって制限されるリスクがあります。 - ブランディングの主導権が移る
PRや販売を全面的に任せることになるため、ブランドのイメージや見せ方に対するコントロールが及びにくくなります。現地でのブランド価値がどのように育てられるかについて、契約の段階で明確な条件を設けておくことが重要です。 - そのパートナーが撤退・倒産した際のリスクが集中する
一社に販路をまとめてしまうため、そのパートナーが経営不振に陥ったり撤退したりした場合、その地域の販路が一気に失われることになります。先ほどの倒産リスクと合わせて考えると、分散が難しい構造的なリスクを抱えることになります。
一方で、こうした提案を受けているブランドの多くは、相手から強くアプローチされているという状況にあります。つまり、ブランド側も交渉力を持っているということです。条件の交渉をためらう必要はなく、ブランディングの保持、契約期間の設定、解除条件の明確化など、守りたい部分についてはしっかり主張することが可能です。
商社が行ってきた海外ブランドの国内展開のノウハウを、逆の方向に応用するような取引形態ともいえますが、ファッションブランド側がこうした構造に慣れていないことも多く、提示された契約書をそのまま締結してしまうケースが後を絶ちません。交渉のタイミングで専門家に相談しておくことで、リスクを大幅に抑えることができます。
グローバルECプラットフォームとの取引リスク
Q:グローバルECプラットフォームとの取引における特徴は?
TAOBAOをはじめとするグローバルECプラットフォームとの取引は、セレクトショップとの取引と共通する部分もありますが、いくつかの点で異なる特徴があります。
最も顕著な違いは、独占性への強いこだわりです。セレクトショップも独占条項を求めることはありますが、プラットフォーム系の企業はそれ以上に強く独占を求めてくる傾向があります。
また、単なる販売窓口にとどまらず、プロモーション活動への関与も求めてくるのが特徴です。自国での強いPR基盤を活かして、ブランドの認知拡大に貢献できるというメリットを提示しながら、PRとセットで独占契約を求めてくるパターンが多く見られます。
販売規模が拡大する可能性がある反面、独占の範囲が広く、かつ出口の条件も厳しいため、そのプラットフォームとの関係が終了した際にブランドが自由に動ける状態を確保できるかどうかを、契約の段階で十分に検討しておく必要があります。
小規模ファッションブランドこそ、早めに相談を
Q&Aセッションでは、小規模なファッションブランドほど弁護士への相談に心理的なハードルを感じているという話題にも触れました。
相手から提示された条件はそのまま受け入れなければならない、あるいは交渉など到底できないと思い込んでいるブランドも多いようです。しかし実際には、適切なタイミングで条件の調整を求めることで、ほとんどの場合において何らかの改善が可能です。問題は交渉できるかどうかではなく、いつ・どのように動き出すかです。
契約書が締結された後では選択肢が狭まります。発注の条件が固まった後では変更の工数が増えます。トラブルが起きてから相談に来られるケースが多いのですが、その時点ではできることが限られてしまっているのが実情です。
弁護士への相談に費用がかかることへの不安も、相談を後回しにする一因になっています。ただ、事前の相談は短時間で方向性を整理できるケースが多く、費用も比較的低く抑えられます。トラブルが発生してから解決するよりも、事前に確認しておく方がコストは格段に低くなります。
海外展開を進めるブランドにとって、契約の問題は避けて通れない現実です。しかし、適切な知識と準備があれば、多くのリスクは事前に回避できます。重要なのは、問題が起きてから対応するのではなく、取引が始まる前の段階で条件を整えておくことです。
また、セミナーという形式に参加するハードルが高いと感じる方には、もっと気軽に立ち寄れる場を設けることも検討中です。ブランド同士が悩みを共有しながら、必要に応じて専門家にも相談できるような、インフォーマルな場の方が相談しやすいという声もありました。どのような形であれ、トラブルが起きる前に専門家とつながっておくことが、結果的に最も効率的な対処法です。
今回のセミナーレポートを通じて紹介した内容が、海外展開を検討しているブランドの皆さまにとって、一歩踏み出すきっかけとなれば幸いです。
お悩みの前に、お気軽にご相談ください
「契約書を見てほしいが、費用が心配」「新しいセレクトショップとの取引が始まりそうだが、何から整えればいいかわからない」—そんなお悩みがあれば、まずは三村小松法律事務所にご相談ください。
事前相談であれば30分程度で方向性が見えることも多く、費用の目安は弁護士の経験年数により異なります。トラブル発生後の対応と比べ、早期相談の方が時間も費用も大幅に抑えられる場合があります。小松弁護士のInstagramのDMからの初回ご相談も受け付けております。何かが起きる前に、お気軽にお声がけください。
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