【第二回 事務所説明会レポート 前編】
弁護士の「キャリア」と「強み」の作り方②
三村小松法律事務所は、2019年に三村量一弁護士と小松隼也弁護士によって設立されました。
当初は所属弁護士5名の小規模な事務所としての出発でしたが、知財・紛争解決・企業法務・海外対応を中心に事業を拡大し、2026年4月現在では弁護士30名の体制へと成長しました。
2026年4月7日、三村小松法律事務所では2回目となる事務所説明会を開催し、対面およびオンラインあわせて約30名の司法修習生、ロースクール生、学部生にご参加いただき、事務所の沿革や業務分野の紹介、パネルディスカッション、質疑応答、懇親会などのプログラムを通じて、活発な意見交換が行われました。
本記事では、杉本直樹弁護士、海老澤美幸弁護士、宮澤真志弁護士によるパネルディスカッションの内容をもとに、異なるキャリアを歩んできた弁護士たちがどのように専門性を築いてきたのか、また、クライアントとの関係構築や業界との関わり方についてご紹介します。
事務所の沿革や業務分野、事務所の特徴については下記の記事をご覧ください。
自己紹介・これまでの経歴・入所の理由
小松
まずは自己紹介を兼ねて、これまでのご経歴や、転籍の理由、この事務所のどんな点に魅力を感じたのかといったあたりをお話しいただければと思います。
最初はエンタメローに強みのある杉本弁護士からお願いします。
杉本
68期の杉本直樹と申します。今年で11年目になります。前の事務所は、いわゆる「街弁」事務所で、離婚・相続・交通事故・中小企業法務など、何でも対応するスタイルの事務所に10年在籍しておりました。
弁護士になった動機は大きく二つありました。一つは検察官になりたかったこと。木村拓哉さん主演のドラマ「HERO」を見て育ちましたので、単純に憧れたというのが正直なところです。ただ、実際に検察の仕事を見聞きしていくうちに、自分の中で思い描いていた働き方とのギャップがあり、チームで仕事をしたいという思いが強くなって断念しました。
もう一つはエンタメ関係の仕事がしたかったこと。バラエティ全盛期に育ったので、エンターテインメントへの思いが強くありました。ただ、普通に芸能界に入ることにも抵抗があり、「人と同じことはしたくない」という自分の性格もあって、別の方向から関われないかと考えました。法律というツールを使えば、何歳になっても様々な業界に新鮮な気持ちで関われるのではないかと考え、弁護士を選びました。後からご縁で芸能プロダクションの中で実務家として働くことになり、弁護士になった動機の半分ぐらいはつじつまが合ったと感じています。
三村小松法律事務所への移籍の経緯は、小松弁護士と10年以上のお付き合いがあり、前の事務所ではエンタメについて相談できる方がなかなかいませんでした。チームで仕事がしたいという思いもあって相談した結果、昨年移籍することになりました。
小松
ありがとうございます。続いて、弊所の創業メンバーの一人であり、ファッションローを得意分野として扱っている海老澤弁護士、お願いします。
海老澤
海老澤と申します。大学卒業後に当時の自治省、現在の総務省で官僚を経験した後、どうしてもファッションに携わりたいという思いから宝島社という出版社に入り、「Spring」という雑誌の編集者を4年ほど務めました。その後ファッションエディターになるためにイギリスに留学し、帰国後に独立いたしました。「GINZA」「ELLE」「Harper’s BAZAAR」「Casa BRUTUS」など様々な雑誌でスタイリスト・ファッションエディターとして約八年活動しました。
弁護士になったのは、ファッション業界に精通した弁護士として、業界に貢献したいと考えたからです。ちょうどロースクール制度が始まって数年経ったタイミングで、「さまざまなバックグラウンドを持つ人が弁護士になれる」という制度の趣旨に背中を押されました。当時はちょうどデジタル化の移行時期ということもあり、誌面用に撮影した写真を二次使用するケースが問題となっていました。こうした問題を解決するには業界をよく知る弁護士が必要だと感じ、「そういえば法律学科卒業だったな」と思い至って自分自身が弁護士になろうと決意しました。
勉強は本当につらく、仕事をしていた頃の方がずっとよかったと感じたこともありましたが、友人たちに支えていただき二度目の試験でなんとか合格しました。41歳でのスタートですので、今でもファッションエディターとしての経歴の方が弁護士歴より長い状況です。
移籍については、小松さんからお誘いをいただき、このタイミングだということで入所いたしました。
小松
ありがとうございます。宮澤弁護士です。特許関連や訴訟・紛争、知財、破産管財人、個人の相続・離婚事件まで、幅広い分野を取り扱っています。
宮澤
宮澤と申します。69期で海老澤さんと同期になります。
弁護士を目指したきっかけは、テレビで見た離婚・相続・刑事事件などの案件で依頼者を直接救う弁護士の姿にあこがれを抱いたことです。もともとは街弁志望でしたが、司法試験合格発表の待ち期間に「下町ロケット」を見て、知財やスタートアップ支援にも興味を持ちました。大学時代にアメリカンフットボールをやっていたこともあり、「中小・スタートアップ企業が大企業に勝つ」という構図にはずっとシンパシーを感じていて、そのイメージと重なったのだと思います。
前の事務所は知財、特に著作権で著名なところでしたが、著作権の専門家になりたくて入ったというより、事務所のホームページにあった「覚悟なき者は去れ」というフレーズに惹かれ、挑戦してみようと思ったことがきっかけです。そこで街弁業務も含めさまざまな経験を積ませていただきました。3年目ぐらいから完全歩合に近いスタイルになり、スタートアップ支援もやりたいという思いから自分で営業活動もするようになりました。
その後、海老澤さんからお声がけがあり、小松さんとお会いして、エンタメやファッション業界に貢献すべく、弁護士という枠に囚われず仕事をされているのを直接拝見し、この事務所に加わりたいと思いジョインいたしました。
現在の業務内容について
小松
皆さんの経緯をお聞きしたところで、現在の業務内容についてお話しいただければと思います。杉本弁護士は先ほど「チームで仕事がしたい」とおっしゃっていましたが、今の業務はどのような状況ですか?
杉本
業務の7割ほどがエンターテインメント・芸能関係になっています。芸能プロダクションでの経験が活きており、当時学んだのは「理屈だけを通しても何も進まない」ということでした。法律やルールと現場との間を統合していく、その橋渡し役にこそニーズがあると感じています。
競合は他の弁護士ではなく、どちらかというとコンサルティングの方々や、芸能人の傍らにいる役割が不明確な人物の方が近いかもしれません。そのポジションに信頼性のあるロイヤーが就くべきだと考えており、ビジネスの構築段階から関わっていけるポジションを現在模索中です。映画の配給・宣伝会社のビジネス戦略まで話せる関係になっているクライアントもおり、日々新鮮な気持ちで取り組んでいます。
エンタメ以外でも、医療や薬局、システム会社などの顧問先に対して、コミュニケーションや戦略づくりの観点からサポートしております。
小松
杉本弁護士がおっしゃっていた「法律以外のアドバイス」というのは、実は非常に重要な話だと思っています。プロジェクトにさまざまなプレイヤーが登場した時に、それぞれの役割や責任をどう整理するかというスキームの設計について、本来はコンサルタントが担う部分だとされていますが、そういったご相談が三村小松法律事務所には本当によく寄せられます。
よくあるのが、すべての役割分担や金額が決まった後に「契約書を確認してほしい」というパターンです。しかし実際には、プロジェクトの話し合いが始まる前の段階で弁護士が関わることに最も意味があります。リスクの芽を早期に摘めますし、スキームも適切に組むことができます。
金額感や相場観についても、弁護士は大量の契約書を見ている立場であることから、最も実務に詳しいポジションにいますが、意外と金額に無関心な弁護士が多いのも現状です。「この金額であれば、ここまでリスクを取ってもいいんじゃないですか、この金額であれば、このスキームではリスクが高すぎます」というアドバイスを事前にしてあげることで、交渉の必要があるのかどうか、クライアントが目指す方向性が分かりやすくなります。クライアントの求めている答えの一歩先を提案する、それが三村小松法律事務所のスタンスです。
海老澤
私はやや特殊かもしれませんが、業務のほぼ100%がファッション関係です。アパレルブランド、工場、海外のPRエージェントなど、本当に幅広くご相談をいただいております。業界経験があることの強みは、まずファッション業界の仕組み・登場人物・仕事のフローなどを把握できているため、アドバイスを的確に行えることだと思います。
先ほど杉本弁護士がおっしゃっていた「役割が不明確なプロデューサーやディレクター」のような人はファッション業界にも多く存在しますが、役割やフローが把握できているので、その人が法律上どのような位置づけになるかなど法的な整理を素早く行うことができます。業界を知っていることから依頼者の方が言いたいことを理解しやすく、それを法的な主張に変換するという点では、翻訳家のような役割とも言えるかもしれません。
また、ファッション関連の案件をたくさん見ているので、例えばライセンス料の料率の相場観などを踏まえて「この料率は低すぎませんか、交渉しましょう」といった話ができるのも強みだと感じています。
法律業務以外では、高島屋・タキヒヨー・カルチャーエンターテインメントグループの3社で社外取締役を務めています。また、行政への働きかけも積極的に行っており、ファッションロー・ガイドブックの作成や不正競争防止法の改正に向けた活動なども取り組んでいます。業界全体が良くなるためには法的な整備が必要だという確信がありますので、そこは継続していきたいと考えています。
宮澤
私は海老澤弁護士や杉本弁護士と比べると比較的オーソドックスな弁護士に近い部分もありますが、こちらに来てからは特許訴訟をメインで担当しています。大型案件が多く、常に弁護士4、5名のチームで動いており、私より上に裁判官経験者などのベテラン弁護士がついてくださる体制です。前の事務所では多くても先輩と2、3名でしたから、チーム感はまったく異なります。
特許案件は技術と常に向き合う仕事ですので、クライアントの開発チームに毎回技術面を教えていただきながら、それを法的に構成して裁判所にプレゼンするという日々を送っています。特許訴訟では、技術説明会という専門技術のプレゼンの場もあり、海老澤弁護士がおっしゃった「翻訳家」という表現はまさにその通りだと感じます。
その他にも、街弁業務の経験から相続・倒産(破産管財人)なども担当しています。また、スタートアップ支援には以前から関心があり、ビジネスモデルの構築段階からコメントするよう心がけています。スタートアップは常に資金繰りとの格闘していますから、私の顧問先である財務コンサルタントも同席する形で、どこからどのようにして資金を調達するかといった相談に乗ることも少なくありません。
「営業」やクライアントとの関係構築について
小松
最後に、どのようにしてクライアントと出会い、どのように関係を築いていくか、いわゆる「営業」についても皆さんの経験をお話しいただければと思います。
宮澤
クライアントと知り合うきっかけは、飲み会や学生時代の部活動のつながりが多いです。経営者が集まる会やスタートアップのピッチイベントなど、弁護士がいない場に出向くと、「弁護士さんなんですか」といった反応をされて驚かれることが多く、自分を認知してもらう場は色々なところにあるように感じています。
営業スタイルとしては、飲み会以外にも、もともと得意ではなかった論文や書籍の執筆にもチャレンジするようにしており、情報発信を通じて専門性をアピールしています。
最後に一つ申し上げたいのは、「今あるつながりを大切にする」ということです。私の場合、大学時代の部活の先輩が起業されてそこから仕事が来るなど、既存のつながりが案件につながることは実際に多いです。新たな出会いを広げることも大切ですが、今あるものを丁寧に維持していただきたいと思います。
杉本
私も飲み会には積極的に参加しますが、「仕事をください」という雰囲気を出さないことを非常に意識しています。あるプロダクションの役員の方からいただいた言葉で今でも心に残っているのが、「誰に対してもファンになってもらうことが大事だ」というものです。たとえ対立する案件の相手方であっても、自分のファンにしなさいと言われたのです。その感覚が自分の基本姿勢になっています。まず知り合った方と仲良くなり、自分がどういう人間かを理解していただく。
当事務所はアート作品が多く展示されておりますので、「ぜひ遊びにいらしてください」とお誘いすると、法律事務所のイメージが変わるようでご好評をいただいています。そのような形で関係を広げていく中で、あるイベントで知り合った方々と親しくなり、それがご縁でカンヌ映画祭に行くことになりました。全額自費ではありますが、面白そうなものには瞬発力を持って飛び込むことが大切だと思っています。
海老澤
私は実は飲み会があまり得意ではなく、飲み会に参加し続けることは体力的にも難しいと感じていることもあり、情報発信に特化するスタイルをとっています。XなどのSNS、セミナーへの登壇、メディアからのご取材への対応、「fashionlaw.tokyo」という無料法律相談窓口の運営など、露出と発信を積み重ねることで、それをご覧になった方からご連絡をいただけるような仕組み作りを心掛けています。
年齢を重ねると、体力の衰えやライフステージの変化などで時間が制限されることも増えてきます。そのため、体力と時間のある若いうちから、基盤となるつながりを作っておくことが重要なのではないかと思います。
小松
「営業」という言葉に構えてしまうかもしれませんが、結局は人と会い、接点を増やし、自分の存在を知っていただくことだと思います。私自身、ファッション分野の主要クライアントとのご縁は湯河原の露天風呂でたまたま隣になった方から始まっているほどで、何が仕事につながるかは本当にわかりません。だからこそ、自分が関心を持つ分野や支援したい業界に顔を出し、通い続けることが大切です。「知り合いに弁護士がいたな」と思い出していただける存在になっていることが、いざという時に声をかけていただける最も近道だと思っています。
一点、安心していただきたいのですが、当事務所はすでに案件が豊富にありますので、入所してすぐに営業をしなければならないという状況では全くありません。最初は先輩の案件を一緒に担当しながら実力をつけていただければ十分です。法律の勉強は事務所に入れば十分にできます。だからこそ今の修習期間や学生のうちは、まず人と会う機会を増やすことに時間を使っていただければと思います。
次回レポートでは、今回の事務所説明会で参加者から寄せられた質問事項についてお伝えします。
【2026.6.10】
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