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  • 【営業秘密 / セミナーレポート 後編】
    漏らしてもアウト。流入してもアウト。〜営業秘密リスクの現実と実務〜


    2026年9月29日に開催された、三村小松法律事務所主催のMIKOTAMAセミナー#09:営業秘密編「漏らしてもアウト。流入してもアウト。〜営業秘密リスクの現実と実務〜」では、不正競争防止法・営業秘密に詳しい黒川直毅弁護士と森義之弁護士が、ゲスト講師に神戸製鋼所の湯澤啓介氏を迎え、秘密管理性の現場の実態と、コンタミネーション(他社情報の流入)への対策を語りました。

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    本記事では、同セミナーの内容をもとに、コンタミネーションについて3名の登壇者で行われた鼎談の様子をお伝えします。


    コンタミ対策その1 入社時の誓約書(第4条・第5条)

    黒川
    鼎談の後半のテーマはコンタミネーションです。まず湯澤様から現場の目線でお話しいただき、その後、森弁護士から、どのような場合に使用があったと裁判所が考えるのかをお話ししていただければと思います。

    湯澤氏
    コンタミを意識した実務も4つあります。
    一つ目は入社時の誓約書です。入社して仕事をしてくれるのはありがたいのですが、前職の秘密を持ち込まれると、我々も困ります。そこで、第4条で、前職などで得た秘密情報を持ち込まないことを定め、第5条で、前職で秘密保持義務や競業避止義務があれば教えてもらうことを定めています。競業避止義務とは、退職後に同業他社で働くことなどを制限する約束です。

    二つ目は教育です。キャリア採用者は、入社後ほどなくキャリア採用者研修を受けます。伝えているのは「前職のノウハウや秘密は持ち込まないでください、ただし前職で培ったスキルは大いに持ち込んでください」ということです。
    スキルの持ち込みはOKとは、不正競争防止法には明示には書いてありません。ですが、同法で営業秘密法制ができる前に、他の会社でも知り得るような一般的な知識やスキルは、退職後も自由に使えるとした判例があります。その考え方から「前記の様な一般的な知識やスキルは持ち込んでよいが、前職ならではの秘密は前職のものなので持ってきてはいけない」と説明しています。
    こうした区別を説明せずに単に「前職の秘密は持ち込んではいけない」とだけ説明すると受け入れ部署の部長が、「折角経験豊富なキャリア採用者を採用しているのになぜ持ち込んではいけないのか」と怒ることがありますが、半分は正しいと思っていて、何を評価し何を持ち込んでいただくのかにも言及する必要があると思っています(ただし、前職の社内文書で右上に秘密と書いてあるようなものは、絶対に持ち込んではいけませんが)。そこでスキルとノウハウの区別を、頑張って表にして教育しています。この表が正しいかは正直分かりませんが、何が言いたいかを分かってもらうためです。法律家でない方には、不正競争防止法の用語ではなく、このように説明する必要があると思っています。

    三つ目は、アンケートと面談です。キャリア採用者研修で学んだことについてアンケートをとりますが、どれが正しいかの設問を問い、理解が不十分な人がいないかも見ています。また、本当に持ち込んでよいスキルなのか前職のノウハウなのか判断に不安でドキドキするか、という項目も設けています。チェックを入れた人には面談をします。面談で前職の秘密を話してしまうかもしれないので、社員ではなく社外の弁護士と面談してもらい、どこまでがスキルかを議論してもらいます。

    四つ目は、受け入れ部署への教育です。キャリア採用者は、前職の秘密を期待して雇うのではなく、スキルがあるから雇うのだと、企業秘密管理にかかる研修の受講者全員に教育しています。私もついキャリア採用者の部下に、前職ではどうしていた、と何気なく聞いてしまいます。ですが、聞かれた方は、前職の秘密まで話せと言われているのではないかと、恐怖を感じるかもしれません。秘密まで知りたいわけではないと、理解して接するように伝えています。
    他社から来た人にスキルは大丈夫と言うからには、当社から出ていく人も、スキルは自由だという話になります。入社時の誓約書で(ベースにした)経済産業省の秘密情報の保護ハンドブックでのひな型から一箇所だけ変えたのがここで、退職後も秘密は守ってもらいますが、他社で同様の職務を遂行すれば獲得できる一般的な知見やスキルは、その限りではない、と定めています。


    前職について聞く場面のリスク

    黒川
    面談で前職の秘密を話してしまうかもしれないので、社員ではなく社外の弁護士と面談するといったやり方は非常に面白いと思いました。一種の「attorneys’ eyes only」、つまり弁護士だけが情報を扱う、という考え方に近いと思います。営業秘密を一度聞いてしまうと、聞かなかったことにはできません。直接使わなくても、参考にしただけでも営業秘密の使用に当たると考えられています。そのため、一度でも会社に他社の営業秘密が持ち込まれてしまうと使用に関して疑われるリスクが高くなってしまいます。そのため、なるべく他社の営業秘密を持ち込ませない体制づくりが重要です。

    退職後の条項も重要です。持ち込みを厳しく管理するなら、出ていく人にもフェアであるべきです。全部だめだとして萎縮させると、何がよくて何がだめか分からず、かえって持ち出す人もいます。フェアな線引きは、転職時の流出を防ぐ良い循環にもつながります。


    訴訟における「使用」の立証と、頭の中にある情報の問題

    森
    訴訟において、被告が営業秘密を使用しているという立証は難しいことが多いです。最近は、情報はデジタル化されているので、メールなどを押さえれば、以前よりは立証しやすくなりました。それでも、使用は相手方の行為ですので難しいです。寝返った人が自白してくれれば直接証拠になりますが、通常は、そういうことはありません。そこで、間接的な事実で立証していくことになります。例えば、顧客名簿なら、従来は取引がなかった顧客に営業をかけている、技術情報なら、今まで作っていなかった製品を作っている、といった事実です。

    元従業員が転職した事案では、頭の中にある情報が問題になります。物を持ち出して使えば分かりやすいのですが、頭の中にあるものを使ったことが、営業秘密の使用になるのかが、訴訟でも争われます。頭の中にある情報であっても、三要件を満たす営業秘密であれば、不正競争になり得ます。ですが、頭の中にあるものを使ったことを、どう立証するのか。立証は難しいことが普通です。

    また、営業秘密と一般的な知見を区別することが必要です。そうしないと、従業員の転職の自由を妨げることになります。東京地裁の判決を一つ挙げます。私が以前、裁判長を務めた事件です(東京地裁判決平成11年10月29日平成7年(ワ)221号、2959号)。この事件は、その業界ではこうやればうまくいくというような一般的知見を、営業秘密だと主張した事案で、裁判所は営業秘密ではないとしました。東京高裁でも維持されています。判決は裁判所のホームページに載っていますので、関心があれば、ご参照ください。


    悪意重過失の立証

    森
    第三者が営業秘密を取得して使用した場合などには、その第三者が、それが営業秘密で不正に取得されたことなどを知っていた、あるいは知らないことに重大な過失があった、という「悪意重過失」を、原告が立証しなければなりません。

    ただ、それが問題になる場面は、被告が実際に使っているという場合なので、使っている以上、裁判官は何か怪しいと考えます。被告が、「悪意重過失」は原告が立証すべきことだからうちは何もしません、と対応しても、通用しません。使っているなら、どのような経緯で使ったかを、被告もきちんと主張立証しなければなりません。そして、その場合には、公にしたくない社内の事情なども主張立証しなければならなくなります。経緯を説明できなければ、重大な過失があるという方向に、心証が傾きやすくなります。

    確かに「悪意重過失」という要件はありますが、流入を阻止し、コンタミがないようにすることが大事です。なぜそんなことをしなければならないのか、と思われるかもしれませんが、いったん流入すると、訴訟などに対応しないといけなくなり、公にしたくない社内の事情なども主張立証しなければならなくなるからです。


    営業秘密性を否定する近年の裁判例と、事案の筋の重要性

    黒川
    最近、マル秘の表示があったのに、営業秘密性を否定する裁判例も出ています。秘密管理性が厳しい時代に戻ったと指摘する方もいますが、裁判所は事案の筋も十分に意識して判断されているのかと思います。

    森弁護士が申し上げたように、使用の立証は難しいです。そのため、平成27年の改正で、使用等の推定規定、不正競争防止法第5条の2を設けました。その後、私が立法担当者として関与した令和5年の改正でも使いやすくする見直しをしています。ただし、だからといってコンタミ対策をしなくてよい、ということにはなりません。

    湯澤様が省略された点で、私が重要だと思うのは、共同開発の場面です。現在は、多くの企業が、スタートアップや他の事業者と共同で開発を進めることが多いです。最初は秘密保持をしたうえで当該会社の技術を評価しますが、様々な事情から破談になったとします。その後、別の会社と共同開発を行って事業化に成功し、そのことを公表すると、破談になった会社から自社の技術が使われたのではないかと主張されることがあります。そのため、もし、「使用は立証できないから大丈夫」というお考えをお持ちの方がいる場合には、その考えは、改めた方がよいと思います。


    危ない情報は持ち込ませないために、研修や記録の重要性

    黒川
    そろそろお時間も来てしまいましたので、まとめに入りたいと思います。森弁護士のお話を受けて、湯澤様、いかがでしょうか?


    湯澤氏
    コンタミの話をすると、いつも、重過失にならなければよいから、そこだけ押さえよう、という話が出ます。ですが、重過失かどうかは、すでに起きた事案を振り返って評価するときに論じられるものです。これから行動するときに、それを予測するのは非常に難しいです。重過失かどうかよりも、危ない情報は入れないことが大事だと、改めて思いました。

    本日の私の話に、そんなことを考えている人がいるのかと驚かれた方も、多かったかもしれません。真似していただいて問題ないと思うのは、研修の場を活用して魂を入れる工夫です。今の研修は電子的ですので、どの社員番号の人が、いつ、どのような研修を受け、何をアンケートに答えたかを、すべて記録に残せます。万一、その人が退職後に問題を起こしたときに、ここまでやっていましたと示せます。平時の対応は、常に記録が取れるようにしておき、いざというときに出せるようにしてください。


    森
    今日は、貴重な機会をいただき、ありがとうございました。


    黒川
    最後に一言申し上げます。立法に携わってきた人間、元裁判官、企業実務の三者が、秘密管理やコンタミについて考えを述べる場は、今までなかったと思います。良いものは皆で共有し、フェアな競争の下で競う。それが産業を良くすると私自身考えています。第2回があるかは分かりませんが、企業風土によって変わる、いろいろなやり方を参考にしながら、より実効的な秘密管理を目指したいと思います。

    また、退職時の持ち出しをした従業員の方にヒアリングすると、「まさかこんなことで逮捕されるとは」という声をよく聞きます。自社を守るためにも、従業員の方を守るためにも、営業秘密の侵害が重大な犯罪だと認識してもらうために、研修は重要です。研修疲れで埋もれてしまうときは、弁護士など外部の人を入れるなどして、普段の研修とは違うのだと印象づける方法があります。そして、重要なことは、その研修に関して記録を残すことです。営業秘密に関する研修を受けたということを記録に残していれば、認識可能性、つまり秘密管理性を高める要素になります。


    質疑応答① 退職時の誓約書をやめ、入社時と研修に一本化した経緯は?

    湯澤氏
    もともとは、誓約書を退職時にも取っていました。より望ましい実務を目指して、誓約書に別紙を付け、その人にとっての秘密情報を特定する形を始めました。ですが、別紙を作るのに時間がかかり、最終退職日を逃して、誓約書が取れない事態が出てきました。これはワークしないと判断し、まず入社時に全員から取り、適時の研修で魂を入れて中身を濃くする形に変えました。退職時にも、入社時の誓約と受けた研修を示すリマインドの一枚紙は渡しています。


    黒川
    補足します。退職時の誓約書については、取得しても有効性が争われたり、そもそも拒否されたりするケースが見受けられます。在職中に拒否することは考えにくく、有効性が争われる余地も大きくないので、在職中の研修のタイミングで取得することは、上手なやり方だと思います。


    質疑応答② アンケートで従業員が認識する営業秘密を記録に残す意義は?

    黒川
    湯澤様にご紹介していただいたものに関して、どのようなものが営業秘密だと思っていますか、というアンケートを組んでいる点が上手だと思います。秘密管理性で問われるのは認識可能性で、裁判所はどのような情報についてどう認識していたかを考慮します。従業員が、これが営業秘密だと認識していたと分かれば、認識可能性はあったと言いやすくなります。会社側からこのような営業秘密がありますね、と特定して確認するやり方もあり得ます。それが記録に残っていれば、後の立証の面でも重要です。


    湯澤氏
    入社時誓約書の内容を説明した研修アンケートで「自身がサインした誓約書の内容を理解した」と返事させるのは、その回答で契約が認定されることを企図しているのか、とのご質問ですが、回答が契約書になるので、そのつもりで書いてください、とは言っていません。うまくすれば契約書として認定されるかもしれない、という思いはありました。ですが、個人的には、契約書になるかどうかよりも、誓約書の内容についてのみんなの理解に魂が入り、中身を理解してくれた度合いが高まる事のほうが大事だと思っています。契約書になってもならなくても、どちらでもよい、という考え方です。


    黒川
    ありがとうございます。本日は私自身も大変勉強になりました。当事務所では規程類を含めた営業秘密に関する管理体制の見直しや社内研修等を承っていますので、営業秘密に関するご相談や有事の際の対応についても、ご興味があればお声がけください。本日はありがとうございました。

    ※本記事は、2026年9月に開催された三村小松法律事務所のセミナーでの登壇者の発言をもとに構成したものです。法令、指針、裁判例、統計、報道内容は、本記事作成時点のものであり、その後変更される場合があります。また、本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の事案に対する法的助言ではありません。個別の事案については、必ず弁護士などの専門家にご相談ください。


    営業秘密に関するご相談

    「退職者が資料を持ち出した形跡がある」「中途採用者が前職の情報を持ち込んでいないか不安」「規程や誓約書はあるが、実際に運用できているか分からない」——こうした状況にある経営者、法務・知財・人事ご担当者の方は、ぜひご相談ください。

    三村小松法律事務所では、営業秘密に関する次のご依頼を承っています。

    ・インシデント対応:持ち出し・持ち込み(コンタミネーション)判明時の初動、警察との連携、民事・刑事手続への対応
    ・管理体制の見直し:社内規程・誓約書・秘密管理措置の点検と整備
    ・社内研修:従業員・管理職・役員向け研修への講師派遣

    当事務所の黒川直毅は、経済産業省で令和5年の不正競争防止法改正と令和7年の営業秘密管理指針改訂に従事しました。条文と指針の趣旨を踏まえ、有事の際に証明できる管理体制の構築を支援します。勝負は平時に決まります。問題が起きる前のご相談も歓迎します。

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    登壇者プロフィール

    黒川 直毅(くろかわ なおき)
    弁護士/弁理士。不正競争防止法および営業秘密の実務に精通。フランチャイズを中心とする事務所、特許訴訟を扱う総合事務所を経て、経済産業省知的財産政策室に4年間出向。出向期間中に令和5年の不正競争防止法改正に従事し、営業秘密管理指針の改訂や「声の保護」に関する研究会の立ち上げにも関与するだけでなく、海外のシンポジウムや大学等でも講演を行った。現在は法務省民事局の調査員を兼務するほか、各種セミナーにも注力している。営業秘密の相談や、営業秘密を含む不競法・特許・著作権訴訟に携わりつつ、知財の全領域へと専門性を拡張。

    湯澤 啓介 (ゆざわ けいすけ)氏
    株式会社神戸製鋼所 法務部担当部長/ニューヨーク州弁護士。1992年に神戸製鋼所へ入社し、知的財産部で26年間、共同研究開発契約・国際ライセンス契約の実務を担う。米国でLL.M.を取得しニューヨーク州弁護士登録。2018年より法務部に移り現職。日本知的財産協会、日本ライセンス協会、経営法友会等で秘密管理や不正競争防止法をテーマに継続的に登壇し、『知財管理』『NBL』への執筆も重ねる。現在は経営法友会大阪部会運営委員を務める。

    森 義之(もり よしゆき)
    1979年 東京大学法学部卒業。1981年より東京地方裁判所判事補などを歴任。1986〜1987年 判事補在外研究員としてイギリスに留学。大阪地方裁判所(行政租税部)、名古屋地方裁判所(行政・知的財産部)、東京地方裁判所知的財産部裁判長などを歴任。最高裁判所調査官、知的財産高等裁判所判事(裁判長)などを務める。2026年 三村小松法律事務所入所。裁判官として長年にわたり、行政・租税・知財・交通など多分野の審理に携わってきた。

    【2026.10.21】

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