言語切り替え
  • 【営業秘密 / セミナーレポート 前編】
    漏らしてもアウト。流入してもアウト。〜営業秘密リスクの現実と実務〜


    2026年9月29日に開催された、三村小松法律事務所主催のMIKOTAMAセミナー#09:営業秘密編「漏らしてもアウト。流入してもアウト。〜営業秘密リスクの現実と実務〜」では、不正競争防止法・営業秘密に詳しい黒川直毅弁護士と森義之弁護士が、ゲスト講師に神戸製鋼所の湯澤啓介氏を迎え、秘密管理性の現場の実態と、コンタミネーション(他社情報の流入)への対策を語りました。

    本記事では、同セミナーの内容をもとに、情報漏えいと流入がもたらすリスクの注意点を整理してご紹介します。


    元立案担当者・元裁判官・企業法務の3者が登壇した経緯

    黒川
    弁護士の黒川です。本日はお集まりいただき、またオンラインでご視聴の皆様も、ありがとうございます。本日のテーマは「漏らしてもアウト。流入してもアウト。〜営業秘密リスクの現実と実務〜」です。三村小松法律事務所は2019年に設立し、知財部を経験した元裁判官の弁護士が5名在籍しています。訴訟に強い法律事務所を目指し、知財や不正競争防止法に関する案件に取り組んでいます。

    当初は私一人でお話しする予定でした。しかし、7月に森(義之)弁護士が入所し、特に森弁護士には営業秘密を含め知財に関し毎日のように質問等をし、勉強させていただいております。この森弁護士の元裁判官の知識と経験を私だけが独占するのではなく、是非皆様にもお伝えし、皆様とより良い知財実務を目指したいと考えました。営業秘密の中心となる秘密管理性は、裁判官の方が発信される機会が多くないと感じています。

    ゲスト講師の湯澤啓介様は、コンタミネーション、つまり他社の営業秘密が自社に流入することへの対策について、知識も実務経験も豊富な方です。役所にいると、企業が実際にどこで悩み、どう管理しているのかは見えにくいため、私が経済産業省に在職していた頃は、事あるごとにお話を伺ってきました。

    情報管理は、技術のように競うものではなく、良いノウハウを共有して皆で底上げするものだと考えています。それが、ひいては我が国の産業の発展につながります。そこで、無理を言って湯澤様と森弁護士にご登壇いただきました。今回のMIKOTAMAセミナーは、立法や指針に携わった立場、裁判所の立場、企業実務の立場から、営業秘密をどう守るかを考える場にしたいと思っています。事前告知から内容が変わったことは、ご容赦ください。警察との連携やインシデント対応にご関心があれば、別途お問い合わせいただけますと幸いです。


    漏らしてもアウト、流入してもアウト——3つのポイント

    黒川
    重要な点は3つです。一つ目は、「漏らしてもアウト」ということです。従業員が所属企業の営業秘密を持ち出せば、逮捕・勾留され、有罪判決を受ける場合があります。当該営業秘密を持ち出された会社は競争力を失ってしまいます。一度営業秘密が流出してしまうと、差止請求や損害賠償請求ができたとしても、秘匿にしていた頃には戻りません。営業秘密は、気軽に持ち出しやすい一方で、実は重大な犯罪です。ただ、その認識は、まだまだ足りないと感じています。また、持ち出した従業員や管理職だけでなく、経営層にも責任が及ぶ場合があることも、意識する必要があります。守る側の分かれ目は、何が秘密かを特定し、誰でも分かる状態にしているか、つまり秘密として管理をしているかどうかです。

    二つ目は、「流入してもアウト」です。いわゆる情報のコンタミネーションです。当該転職者を受け入れた会社そのものが刑事責任を負う例も出てきています。また、仮に会社の刑事責任が追及されなかったとしても、警察が当該会社に捜索・差押えを行うことや、民事の差止請求によってビジネスが止まる可能性があります。ポイントは、持ち込ませない体制を作っているかどうかです。

    三つ目は、「勝負は有事ではなく平時に決まる」ということです。事後に秘密管理をなんとかしようとしても間に合いません。平時からしっかり管理するとともに、後からそれを証明できる形にしておくことが重要です。


    転職時の持ち出しから海外流出まで、相次ぐ営業秘密事案

    黒川
    最近の報道で象徴的なのは、9月に報じられた旭化成の事案です。海外に情報が漏れていたと報じられています。海外に漏れなくても、製造業をはじめ、さまざまな業界で問題が起きています。損害保険の顧客情報の問題もありました。

    富士通の子会社である富士通Japanでは、従業員が、転職活動のために資料を私用メール宛てに送信して持ち出したとして、逮捕されました。このように転職目的の持ち出しから海外流出まで営業秘密侵害事案が相次いでいるとともに、逮捕自体も珍しいことではなくなっています。

    さらに注目すべきなのが、NTT西日本の事案です。顧客情報が流出したもので、個人情報の側面もありますが、親会社であるNTT西日本の社長が責任をとって辞任しました。このように営業秘密の流出は、トップの進退にまで及ぶ場合があります。また、ベネッセの顧客情報が流出した事案では、株主代表訴訟が提起されました。代表訴訟とは、株主が会社に代わって、取締役の責任を追及する訴訟です。最終的には請求が棄却されましたが、そのようなリスクがあることは認識していただく必要があります。

    流入側で最近話題になったのは、はま寿司の原価情報等がかっぱ寿司を運営するカッパ・クリエイトに持ち込まれた事案です。カッパ社の商品部長が、はま寿司のデータを使った比較表を作っていたとされ、当該商品部長に有罪判決が下されているとともに、カッパ社も法人として有罪判決を受けています。転職者を受け入れた企業の従業員の方も、十分に気をつけなければなりません。

    また、起訴に至らなくても、大丈夫というわけではありません。最近は、警察の方でも営業秘密の保護を強化しており、被疑事実が認められる事案については、捜査の一環として捜索差押えを行います。捜索差押えを受けただけだとしても、レピュテーションリスク、つまり評判の低下による損失は大きいです。さらに、民事訴訟において差止めを受けると、ビジネスが止まってしまう可能性もあります。中途採用は、人だけでなく、情報を受け入れる行為でもあります。リスクは、受け入れた側に移ると考えてください。

    私は自称、営業秘密オタクで、毎日のように営業秘密に関する報道をチェックしています。私の体感では、月1回くらいは営業秘密に関する報道があります。警察庁が公表している統計を見ると、令和7年の検挙件数は38件と過去最多となっており、これは月にならすと3件ほどです。また、相談を受理した件数も、統計を取り始めた平成25年は12件でしたが、令和7年は74件と、当初の約6倍となっています。さらに、営業秘密が持ち込まれた側の会社は、令和4年以降、毎年検挙されており、昨年度は6社でした。このように、かっぱ寿司の事案は、たまたま検挙されたという訳ではありません。


    検挙が増えている4つの理由——人材流動化、デジタル化、証拠環境、警察の強化

    黒川
    理由は4つあると考えています。一つ目は、人材の流動化です。一社で勤め上げる方は、特に若い世代では珍しくなりました。転職すれば、すなわち人が動けば、情報も動きます。持ち出しは退職前に集中する傾向があり、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)の調査でもそのような結果が出ています。営業秘密の国際会議に出席した際、中国や韓国、アメリカといった海外でも同じ傾向だと聞きました。

    二つ目は、デジタル化による持ち出しハードルの低下です。紙の時代は、資料が厚くなれば重く、退職前に紙袋を提げていれば怪しまれ、コピーにも時間がかかりました。物理的にも心理的にも、プレッシャーがあったのです。今は、数回クリックするだけでメールに添付して送付でき、簡単に誰にも気づかれずに送れるため、物理的・心理的ハードルはかなり低くなっています。以上のような2つの理由から、統計に表れない件数も含めて、そもそも持ち出し自体が増えているのではないかと見ています。

    三つ目は、証拠環境の変化です。以前は、競合に転職した元従業員が営業秘密を持ち出したのではないか、怪しいな、で終わっていました。しかし、今は、ログが残っていれば、退職前に不必要な情報をダウンロードした事実が分かるため、複製の事実を立証しやすくなりました。警察も、怪しいというだけではなかなか動くことはできません。

    四つ目は、警察の取り組みの強化です。現在、各都道府県警に営業秘密保護対策官が置かれています。


    営業秘密の三要件と、一般に言う「企業秘密」との違い

    黒川
    不正競争防止法は、営業秘密について要件を定めています。そのため、3つの要件を満たすものが営業秘密であり、世間でいうところの企業秘密とは、少しずれがある場合があります。

    一つ目は、秘密として管理されていることという秘密管理性要件です。争いになるのは、ほとんどこの秘密管理性要件です。二つ目は、有用性要件です。「有用」という文言を見ると、特許のような新規性や進歩性が必要だと思われがちですが、それほど高いハードルではありません。三つ目は、一般に知られていないという非公知性要件です。

    経済産業省の営業秘密管理指針では、「秘密管理性要件が満たされるためには、営業秘密保有者の秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要がある」と記載されています。誤解されやすいのですが、セキュリティ的な管理と、秘密管理性による管理は、求める管理のレベルが違います。秘密管理性は、高度なセキュリティ管理まで求めているわけではありません。

    営業秘密管理指針では、平成27年の改訂までは、アクセス制限と認識可能性の2つを要件として掲げていましたが、平成27年改訂により認識可能性に一本化しました。特許にはクレームという権利の外縁を明確化する制度がありますが、営業秘密にはそのようなクレーム制度はありません。また、営業秘密は情報ですので、固定的なものではありません。

    このような理由から、何もしていないと何が営業秘密かということが分かりません。従業員は、日々様々な情報に接するところ、どの情報を外に出してよいのか、どの情報を外に出していけないのかということが分からなければ、業務に支障が出てしまいます。そこで、情報に接する者の予見可能性を担保するために、秘密管理性要件が規定されているのです。そのため、情報に接する人が秘密だと認識できるかを見ているのです。必要な措置は、企業の規模、業態、情報の性質などで変わります。アクセス制限やマル秘表示は、あくまで手段の一つです。

    私が担当した令和7年改訂では、情報の性質について明示的に書きました。企業にとって重要な情報で、当然に秘密として管理しなければならないことが従業員にとって明らかな場合には、従業員の認識を活用した管理が許されます。会社のパソコンのIDやパスワードによるアクセス制限程度の技術的な措置や、就業規則や誓約書において当該情報の漏えいを禁止しているといった規範的な措置で足りる場合もあります。重要な情報かどうかで、求められる管理の程度が変わり得るということです。


    秘密管理でよくある落とし穴

    黒川
    現場でよく見る落とし穴は3つです。一つ目は、何でもマル秘にして、結局何が秘密か分からなくなること。二つ目は、規程や誓約書で、業務上知り得た情報などと広く定めてしまうこと。三つ目は、立派な規程を作っても形骸化し、場合によっては逆効果になることです。規程や誓約書は、あるだけでは足りず、実際に運用されて初めて意味を持ちます。

    また、一般に、法律は民事のほうが広く、刑事のほうが狭いといわれますが、営業秘密では逆転する場合があります。具体的には違法になる時点が違うのです。刑事は、在職中の従業員が、転職目的でデータをダウンロードして複製を作成した時点で、領得罪が成立します。領得罪とは、営業秘密を不正な目的で複製したりする行為を処罰する類型です(不競法21条2項1号)。複製、具体的にはダウンロードした時点で既遂、つまり犯罪が完成します。

    一方、民事では、ダウンロードしただけでは不正競争になりません。不正の目的で使用や開示された時点で不正競争になります。刑事の方が、違法となる時点がかなり早く、この点も、警察による検挙が増えている背景の一つだと考えています。

    中編では秘密管理性について3名の登壇者で行われた鼎談の様子をお伝えします。

    後編ではコンタミネーションについて3名の登壇者で行われた鼎談の様子をお伝えします。


    営業秘密に関するご相談

    「退職者が資料を持ち出した形跡がある」「中途採用者が前職の情報を持ち込んでいないか不安」「規程や誓約書はあるが、実際に運用できているか分からない」——こうした状況にある経営者、法務・知財・人事ご担当者の方は、ぜひご相談ください。

    三村小松法律事務所では、営業秘密に関する次のご依頼を承っています。

    ・インシデント対応:持ち出し・持ち込み(コンタミネーション)判明時の初動、警察との連携、民事・刑事手続への対応
    ・管理体制の見直し:社内規程・誓約書・秘密管理措置の点検と整備
    ・社内研修:従業員・管理職・役員向け研修への講師派遣

    当事務所の黒川直毅は、経済産業省で令和5年の不正競争防止法改正と令和7年の営業秘密管理指針改訂に従事しました。条文と指針の趣旨を踏まえ、有事の際に証明できる管理体制の構築を支援します。勝負は平時に決まります。問題が起きる前のご相談も歓迎します。

    ご依頼・お問い合わせはこちら


    登壇者プロフィール

    黒川 直毅(くろかわ なおき)
    弁護士/弁理士。不正競争防止法および営業秘密の実務に精通。フランチャイズを中心とする事務所、特許訴訟を扱う総合事務所を経て、経済産業省知的財産政策室に4年間出向。出向期間中に令和5年の不正競争防止法改正に従事し、営業秘密管理指針の改訂や「声の保護」に関する研究会の立ち上げにも関与するだけでなく、海外のシンポジウムや大学等でも講演を行った。現在は法務省民事局の調査員を兼務するほか、各種セミナーにも注力している。営業秘密の相談や、営業秘密を含む不競法・特許・著作権訴訟に携わりつつ、知財の全領域へと専門性を拡張。

    湯澤 啓介 (ゆざわ けいすけ)氏
    株式会社神戸製鋼所 法務部担当部長/ニューヨーク州弁護士。1992年に神戸製鋼所へ入社し、知的財産部で26年間、共同研究開発契約・国際ライセンス契約の実務を担う。米国でLL.M.を取得しニューヨーク州弁護士登録。2018年より法務部に移り現職。日本知的財産協会、日本ライセンス協会、経営法友会等で秘密管理や不正競争防止法をテーマに継続的に登壇し、『知財管理』『NBL』への執筆も重ねる。現在は経営法友会大阪部会運営委員を務める。

    森 義之(もり よしゆき)
    1979年 東京大学法学部卒業。1981年より東京地方裁判所判事補などを歴任。1986〜1987年 判事補在外研究員としてイギリスに留学。大阪地方裁判所(行政租税部)、名古屋地方裁判所(行政・知的財産部)、東京地方裁判所知的財産部裁判長などを歴任。最高裁判所調査官、知的財産高等裁判所判事(裁判長)などを務める。2026年 三村小松法律事務所入所。裁判官として長年にわたり、行政・租税・知財・交通など多分野の審理に携わってきた。

    【2026.10.21】

    法律相談・メディア出演のご相談はこちら

    お問い合わせ

    MiKoTamaメルマガ
    法律に関する様々な情報トピックをメルマガで配信

    登録する