次世代デザイナーの新星KANAKO SAKAI を支える ファッション法務の現在地。【後編】
日本発信のファッションブランドとして次世代を作っていく本格派の一人、KANAKO SAKAI(カナコサカイ)。2022年春夏コレクションでデビューし、翌年2023年にはJFWネクストブランドアワードも受賞しました。
当事務所の代表弁護士・小松隼也は10年ほど前、当時は業界ではほとんど知られていなかったファッションに特化した法律を学ぶためFordham大学に留学していましたが、その時、デザイナーの卵だった学生時代のサカイさんに出会っています。
時が過ぎ、それぞれの分野でキャリアを積み上げたふたりが、この秋、KANAKO SAKAI 2024年秋冬キャンペーンで初めてオフィシャルなタッグを組みました。
前後編の2回で対談をお届けします。
<前編>はこちら
—そもそもはなぜファッションデザイナーを志したのですか?
サカイ(以下S):大学では言語学を専攻していましたが、19歳の時、突如閃いたんです。
茨城出身で、父母ともに教師で、文化とかには無縁な育ちでしたが、子どもの頃からファッションは好きだったんです。バイヤーとか何かファッションには関わりたいなあ、とは漠然と考えていたのですが、最初はデザイナーとして服を作る、という発想はなくて。でも、ある日、自分でもなれるかも? と思いついて、夜間でファッションの専門学校に通い始めました。
その日から自分のブランドも立ち上げるって決めて、始めるためにはどうしたらいいか? と逆算しながら動いてきた感じですね。
—19で決断して、ニューヨークにも行って、真っ直ぐ進んでいく強さは素晴らしいですね。
S:生き方としては決めちゃった方が楽。気持ちが揺れると迷っちゃうから、迷ったら何もできないし。
—これまでの道のり大変なことはありましたか?
S:会社を始めてからの方が大変ですね。
小松(以下K):ニューヨーク時代からの約束どおり、設立のときは手伝いました。法人登記して、株式はどうする? とかポイントを押さえながら。
個人名の商標に関しては時代によって変遷があるのですが、2021年の設立当時は個人名がブランド名としては登録できなかったんです。ただその後、弊所の同僚が改正にも関わり、2024年の4月1日からできるようになりました。
S:それで今年出願したんです。自分の名前ってそんなに好きじゃなかったんですけど、海外の人から「音がいいね」と言われて。
あとは自分の名前をつけたら、もう逃げられない、みたいな。ファッションってサイクルが早いので正直疲れるな、と思う時はあります。
K:アート業界だと作家は作品を作って、ギャラリーがファイナンスからマーケティング、VIPの対応とかまでビジネス全般をやってくれるけれど、ファッションはデザイナー自身が全部をやらなくちゃいけないというのが大変。
S:ショーをやるにしても資金調達が課題になりますね。
K:日本ではファッションの分野でファンドレイズできる仕組みがないし、ビジネスをどう回していくか、というのを熟知したファイナンスの専門家があまりいない。
日本の若手デザイナーで面白い人材はたくさんいるから、今後うまくやればグローバルにポジションを築いていくことはできると思います。
S:日本はニューヨークとかに比べると、そこまでコストをかけずにブランドを続けられる素地はある。日本国内のファッションマーケットは小さくないので、国内だけでやっていても回していける土壌があるから変わらない、というのもあるかもしれません。
K:今、弊所ではファッション関係ではブランドだけでなく、物流会社やショールームなどアパレル関連で300社くらいのクライアントがいます。
会社設立から商標登録、資金調達、海外取引の際の契約や条件交渉、ホールセールやシッピング、プライバシーポリシーなど、法務関係のポイントは数多くあります。
S:会社経営をしていて難しいのが、生地を買うにしても、縫製工場にお願いするにも、全てが先払いなこと。
コレクションを作り始めてから、最終的に資金を回収するまでに1年くらいはかかってしまうんです。
商社さんは通常私たちのような小規模なブランドは相手にしてもらえないことが多いんですが、この間小松さんに紹介していただいて。それでずいぶん楽になりました。
—小松さんは会社を大きくしていくときのアドバイスもされるんですか?
K:株式の発行や資金調達、役員を入れた時の報酬条件とか、海外コンサルやショールームとの契約条件とか。ファッション関連の取引はもう何百件とやってきていますから、トラブルになりやすいポイントも熟知しています。
資本金の金額や海外との取引条件とか、数字まわりも多く見てきていますので、法務のアドバイスにとどまらず、ビジネスコンサルティングまで業務範囲は広がってきていますね。
—日本では珍しいのではないでしょうか?
K:ファッション業種に特化した法務をやっている事務所は日本にはあまりないです。そのためにもニューヨークへ留学しました。業界特化型の弁護士も日本には少なく、ファッションを扱う事務所もなかったので、設立したという経緯もあります。
—今後KANAKO SAKAI の展望は?
K:10年前「自分はすごいブランドになるからよろしく!」って言われて、帰ってきて、ちゃんとブランドも立ち上げて。3年で、J F WやWWDのアワードも取って、そろそろ次のステップが見えてきたのではないかな?
ビジネスが拡大して海外取引が増えてきた時の契約交渉とかやりたいなあ。
S:最近、日本の新進ブランドでも海外のジャーナリストからも高い評価を受けていて、日本のブランドに求められることも徐々に変わってきている気がします。
自分もいいタイミングで次世代デザイナーとして海外で認知されていったらいいな、と思っています。
Photograph by Mao Nakazawa
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