次世代デザイナーの新星 KANAKO SAKAI を支える
ファッション法務の現在地【前編】
日本発信のファッションブランドとして次世代を作っていく本格派の一人、KANAKO SAKAI(カナコサカイ)。2022年春夏コレクションでデビューし、翌年2023年にはJFWネクストブランドアワードも受賞しました。
当事務所の代表弁護士・小松隼也は10年ほど前、当時は業界ではほとんど知られていなかったファッションに特化した法律を学ぶためFordham大学に留学していましたが、その時、デザイナーの卵だった学生時代のサカイさんに出会っています。
時が過ぎ、それぞれの分野でキャリアを積み上げたふたりが、この秋、KANAKO SAKAI 2024年秋冬キャンペーンで初めてオフィシャルなタッグを組みました。
前後編の2回で対談をお届けします。
—まずは2024年秋冬のキャンペーンビジュアルの撮影場所が三村小松弁護士事務所になった経緯を教えてください。
小松(以下K):サカイさんが日本に帰国され、デザイナーとして成長されてきたのはずっと拝見していたのですが、今年私どもの事務所も新しくスペースを整えたので、ちょうどいいタイミングかな、と思ったのがきっかけとなりました。事務所を異業種交流の場として使っていただけるのは嬉しいことなので。
サカイ(以下S):私は今、以前小松さんに紹介していただいたYAU(有楽町アートアーバニズム)というクリエーティブスペースを仕事場としているのですが、そこもたまたま小松さんの事務所と近くて。
K:YAUは2022年に三菱地所らが始めたプログラムで、オフィス街である有楽町に、海外にはよくみられるアーティスト・イン・レジデンスのような形でスペースを提供することによって、クリエーティブな人たちの交流を発生させ、街の活性化を図っています。私も折に触れて、意見交換させていただく中で、日本ではファッションデザイナーとアーティストって意外にあまり接点がないな、と感じ、サカイさんを紹介させていただきました。
S:アーティストのほか、写真家や建築家、パフォーミングアーツの方などと大きなスペースをシェアしていて、みんな一生懸命やっているので、刺激になりますね。
K:今回撮影をお願いした写真家の川谷光平さんは、以前、自分も関わった丸の内のショーウィンドーのプロジェクトで撮影をお願いしたのですが、いつも構図や被写体の捉え方がユニークでテクスチャー感やデジタル性の強さが特徴です。自分は写真学校も出ているので、ずっと写真に興味を持って作品のコレクションもしてきているのですが、写真家の作家性を重視したファッションのプロジェクトがもっとあってもいいんじゃないか? というのは常々思っていて。それでサカイさんにご紹介しました。
S:自分が作った服があって、小松さんの事務所があって、そして川谷さんという写真家がいて、というところから始まりました。この3者が集合し、即興的な感じで撮影が進んでいったのですが、川谷さんの切り取り方が自分の視点とは全く違って新鮮でした。オフィス空間でありながら、謎めいているというか、その不思議なバランスに川谷さんらしい構図がよく活かされていると思います。
—撮影された2024年秋冬コレクションの背景について、教えていただけますか?
S:自分が信じてきたもの、思っていたことは、本当に自分で選んだものなんだろうか? という問いから始まったシーズンでした。
そんな時、キム・カーダシアンが乳首のついたブラを売り出して、その流れって面白いな、と思っていたところ、マリリン・ヤーロムの『乳房論』という本に出会ったんです。
女性論にも繋がるんですが、乳房って子供を産んで育てるためのものだったり、ある時は男性の欲望の対象だったり、公共の場では隠されなければならなかったり、女性の身体なのに、歴史上、女性自身がコントロールできたことがない部位、という特殊性に興味を抱いたんです。
今まで自分が苦手としてきた女性性に向き合い、消化できたら、というところが出発点となりました。
—KANAKO SAKAIブランドのコンセプトとは?
S:ふたつ軸があって、ひとつはラベリングされない人のための服。人間味と反骨精神があるような。ふたつ目は日本のブランドなので、日本の技術を使ってそれをエッセンスとして海外に発信していきたい、というのがあります。
—螺鈿細工など日本の工芸もデザインに取り入れていますね。
S:はい、職人の方たちによる伝統技法を現代的に消化する、というのを毎シーズンやってきました。ただ、量産が難しくなってしまう場合も多いので、そのバランスを模索しているところです。日本製の素材を使いながら、生産もなるべく日本の工場で行なっていますが、私のような若手ブランドでそうしたコンセプトを立てているところってあまりないので、職人さんも面白がってくれることが多く、他分野の職人さんを紹介してくれたり、ということもありがたいことですね。
—おふたりがニューヨークで出会ったころの話を教えてください。
K:世界で初めてファッション分野の法律を専門に扱う非営利のFashion Law Instituteという機関がニューヨークのCFDA(アメリカファッションデザイナーズ協会)の支援のもと、フォーダム大学内に設立されたんです。それで自分もファッションの法律を勉強するため渡米し、当時パーソンズに留学されていたサカイさんに出会いました。
S:ファッションを学ぶとしたら、ニューヨークのパーソンズかロンドンのセントラルセントマーティンズか、という二択があってどちらにしようか? と考えました。海外に行くといつもよそ者、という感覚があるのですが、ニューヨークは初めて行った時からそれがなくて、ホームという感じがしたんです。それでパーソンズに決めました。
K :最初に会った時から「自分はファッションデザイナーになって、すごいブランドになるからよろしく!」みたいなことを言っていて。英語もそんなには喋れなかったはずだけど、現地の人たちとのコミュニケーションも達者でびっくりしました。当時自分はお金もなければ、何もなかったけど、日本に戻って弁護士として活躍していたら、その時はブランドの法務はサポートするから、と約束していました。
S:パーソンズの授業はプレゼンテーションが多いんですが、自分でも意味全然わかんない、みたいな謎の英語なんですが「作品が目の前にあるから、分かるでしょ!」みたいな気合いで喋り続けていたら、先生に「これがワールドランゲージだ」って褒められました(笑)。自分のパッションさえあれば、理解しようと相手に思ってもらえるというか。
K:日本人では珍しいタイプ。プライベートでもいつもそんな感じで、いろんな人と仲良くなっているし、楽しそうだし、本当にこの人は世界で勝負できるな、って思いましたね。
Photograph by Kohei Kawatani
Courtesy of KANAKO SAKAI
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