【ファッションロー / セミナーレポート】
海外ショールーム、セールス / PRエージェントとの契約実務~トラブル事例で学ぶ 契約交渉の必要性とポイント~⑴
2026年2月19日、三村小松法律事務所主催のMikotamaセミナー#07「海外ショールーム、セールス / PRエージェントとの契約実務~トラブル事例で学ぶ 契約交渉の必要性とポイント~」が開催されました。セミナーでは、実際のトラブル事例を踏まえながら、契約交渉の必要性と具体的なポイントについてご説明しました。
講師を務めた小松隼也弁護士は、弁護士として企業法務、知的財産、訴訟など様々な分野の案件に携わっていますが、2015年にニューヨークのFordham University School of Lawに留学し、ファッション・ローを体系的に学びました。帰国後はファッション、ジュエリー、アート、建築、デザインなどクリエイティブ分野に特化した法務を扱い、現在200社以上のブランド様とお付き合いしています。
新田真之介弁護士は、弁護士登録後、幅広く訴訟・交渉事案に携わる傍ら、米国宝石学会・Applied Jewelry Professional(GIA-AJP)資格、日本ジュエリー協議・ジュエリーコーディネーター1級(JJA-JC1)を取得するなど、ジュエリー・時計・アート・ファッションなどの専門知識を培っています。また、一般社団法人日本宝石協会 理事、山脇美術専門学校 非常勤講師も務めています。
本記事では、セミナー内容をもとに、海外ショールームやセールスエージェントとの契約トラブルに焦点をあて、その典型パターンと回避策を整理してご紹介します。
後編はこちら
目次
独占条項の落とし穴 ― 全世界独占と固定報酬のリスク
海外ショールーム、セールス/PRエージェントとの契約において、まず最も問題になりやすいのが「独占条項」です。
海外の雛型では、「XX shall exclusively handle the Services worldwide.(●●は本件業務を全世界において独占的に取り扱う)」などと極めてシンプルに業務の羅列の後にさらっと書かれていることが多いです。
しかし、この一文が極めて重い意味を持ちます。例えば、
- 日本国内販売分にもコミッションが発生する
- 自社EC販売も対象になる
- 既存取引先もコミッションの対象になる
といった解釈が可能になります。
また、月額固定報酬(2,000〜5,000ユーロ程度)が設定されているにもかかわらず、ミニマム(最低販売義務)の設定がない契約も非常に多いです。つまり、売上が立たなくても契約年数(3〜5年)の間、固定費を払い続ける構造になっているのです。
加えて、
- 3〜5年という長期契約
- 自動更新条項
- 中途解約時の違約金(前年支払額相当など)
- 契約終了後1年間のコミッション継続
といった条項がセットで入っていることも珍しくありません。
結果として、「思ったように売れない」「関係が悪化した」「他の有力代理店と契約したい」と思っても、契約が足かせとなり動けなくなってしまうのです。
セミナーでは、上記の雛形の特徴を踏まえて、独占条項についてどのように交渉するのがオススメかという点について実例を踏まえた詳細な説明がなされました。
コミッション計算基準 ― 受注額基準か回収額基準か
次に重要なのが、コミッションの算定基準です。
多くの契約は「受注額基準」です。つまり、展示会で受注した金額に対して10〜15%を翌月末までに支払うという構造です。
しかし近年、セレクトショップや百貨店の倒産、支払遅延、未回収といった相談が格段に増えています。受注はして、シッピングも完了したが代金を回収できない、なのにコミッションを支払い済みで返還もしてもらえないというケースが頻発しています。
受注額基準では、
- 代金未回収でもコミッションの支払義務あり
- 返品・キャンセルでも返還規定がない場合がある
という問題が生じます。
実際のトラブル
- 百貨店倒産
- 売掛金未回収
- 回収協力をしてもらえない
- セレクトショップの担当者の連絡先を教えてもらえない
こうした事例はここ数年で急増しています。
セミナーでは、上記のような昨今の状況を踏まえて、どのような交渉を進めるのがよいかという具体例の説明がなされました。この点はショールームやセールスエージェント側としても、仲介業務は既に終了した後の事情なので、交渉のハードルはやや高めです。
ショールームとよい関係を構築するためにも、こちら側の希望を伝えるのみではなく、お互いにとってWin-Win になるような条件の交渉が必要になります。
交渉の大枠としては、
- コミッションの発生基準の調整
- 例外の設定を調整
- コミッション率を双方にとってWin-Winとなるように調整
などが考えられます。
この点は、昨今の回収状況を踏まえて現実的な交渉が可能なポイントなので、ショールームやセールスエージェントとの信頼を構築しながらの交渉と現実的な落とし所の設定が重要になります。
PR契約の抱き合わせ問題
3つ目はPRに関する業務委託契約です。
セールス契約に「PRもやります」と一文追加され、PRについて月額2,000〜3,000ユーロの固定報酬が設定されるケースが多く見られます。
問題は、
- 独占条項が設定されている
- KPIがない
- 成果達成基準がない
- 契約期間がセールス契約と同一期間で設定されやすい
- セールス契約と同じ違約金条項が適用される
という点です。
結果として、PRの成果が曖昧なまま独占条項により3〜5年拘束されることがあります。
交渉のポイントとしては、業務内容や達成基準を明確化することや、セールス契約との分離を目指すことになります。また、PRに関しては独占条項を設ける必要性も低いのでこちらも交渉の余地があると考えます。
海外契約交渉のマインドセット
最後に、海外の企業との交渉に臨む際のマインドセットについてです。
海外契約の雛型は基本的にはかなり「相手方有利」に作られています。そして、「交渉される前提」で提示されます。このようなときに、日本のブランド側は条件交渉を遠慮しがちですが、これまでの契約書を修正してきた経験からすると、条件面についてはほぼ交渉が可能です。
法律面に関する準拠法(どこの国の法律が適用されるか)や裁判管轄(紛争になった際にどこの裁判所で解決するか)などは変更が困難な場合が多いのですが、条件面に関する
- 独占範囲
- 契約期間
- コミッション率
- 解約条件
といったビジネス条件は十分調整が可能です。
重要なのは、「関係が良好な契約締結前に交渉する」ことです。トラブル後に条件を変えたいという相談が非常に多いのですが、関係性に問題が生じている段階では選択肢が大きく制限されます。
また、条件を削りすぎると相手のモチベーションを下げることもあります。
そこで、目標売上達成時にはコミッション率を先方の提案からさらに増額する代わりに固定費を削減してもらうなど、先方にとってもポジティブなインセンティブ設計を組み合わせることが、実務上は非常に重要です。
契約は防御ではなく戦略である
海外展開は大きなビジネスチャンスです。しかし契約構造を誤ると、その成長機会を自ら制限することになります。
独占、固定費、受注額基準、中途解約の違約金、自動更新――これらは決して珍しい条項ではありません。むしろ標準的です。だからこそ、契約の締結前に構造を理解し、戦略的に交渉する必要があります。
契約書はトラブル処理のための道具ではなく、ビジネス戦略そのものです。三村小松法律事務所では、トラブル後の相談も多いですが、契約を締結する前の条件交渉に関する相談や協業スキームに関する相談の方が多くなってきました。弁護士を、トラブルの際に相談をする相手としてだけではなく、契約締結前に条件交渉の相談相手としても思い出してもらえると役立つかと思います。
次回レポートでは、ファッションローセミナー後半に実施されたQ&Aセッションの様子をご紹介いたします。
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