現地からお届け!
オランダの就労ビザと家探しのいま
【松下昂永弁護士 オランダ留学体験記】
今回の三村小松法律事務所は少し力を抜いた気軽なトピックをお届けしたいと思います。
実は2025年9月からオランダのハーグに留学をしている松下昂永弁護士。事務所内からもその暮らしぶりについて「気になる!」という声が多数聞こえております。
松下弁護士に現地からの雑感をお伝えいただきます。
就労ビザ取得は簡単!?
背景には凄腕弁護士の功績が
オランダは日本人にとって極めて有力な移住先として知られています。在欄日本人数は増加を続けており、現在ではおよそ1万人の日本人がオランダに在住しているそうです。その目的は様々で、ビジネスはもちろん、子女の教育を目的とした移住も増えていると聞きます。
なぜオランダは日本人にとって魅力的な移住先なのでしょうか。
おしゃれな街並み、ゴッホやフェルメールといった有名画家の作品、チューリップ、風車、運河、サッカー、先進国、様々な要素があるでしょう。しかし何よりも、日本人にとって、オランダはいわゆる就労ビザ(厳密にはresidence permitを指しています。)の取得が容易であることが大きな要因です。
一般論として、いわゆる先進国と呼ばれるような国々では、就労できるビザを取得することは容易ではありません。外国人を就労させることは自国民の労働機会を奪うことにつながる、という危機感が根底にあるのでしょう。例えば、アメリカでは、日本人であっても就労ビザを取得することは従来から容易ではありませんでしたが、トランプ政権になってからというものそのハードルは一層上がっています。
オランダでも全ての外国人について就労ビザの取得が容易とは言えませんが、こと日本人については、就労ビザの取得が極めて簡単になっています。
そのような扱いがされるようになったきっかけは、なんと100年以上前に締結された日蘭通商航海条約にあります。この条約は、オランダにおける最恵国待遇を日本人に与えると定めていました。つまり、オランダがどこかの国の人に特別な利益を与えていたら、自動的に日本人もその恩恵にあずかれるということです。
この条約は2度の大戦を経て人々に忘れ去られていましたが、2012年に日本のとある法人が日本茶室・庭園をオランダに建設する際にオランダで労働許可を取得しなかったことが問題になった事件がありました。その際に法人側の弁護士が「この条約、生きてる・・・?」と気づいて主張してみたところ、裁判所がこれを認め、その後政府も正式に有効性を認めました。その結果、従来特別に就労ビザを不要としていたスイス人への扱いが日本人にも及ぶこととなり、日本人はオランダでの就労が非常に容易になったのです。この事件がきっかけとなって、現在でも日本人には特別なビザ取得手続が適用されています。まさに凄腕弁護士ですね。
しかも、2024年の手続改正によって、従来の手続が一層簡素化・迅速化されました。実際、私もオランダでの就労ビザ取得を支援した経験がありますが、書類としては極めて簡単な上に申込みから数週間で承認の連絡があって非常に驚きました。

家探しに奔走!
競争率の高さにびっくり
このように就労ビザの取得自体は非常に簡単なのですが、1つだけ大きな問題があります。
オランダ移住に際して唯一かつ最大の問題は、家探しです。生活の拠点がないという実質的な問題はもちろん、オランダに長期滞在するために法律上必要とされている自治体への住民登録手続においても、住居の確保が条件となっています。つまり、家が見つからないとオランダに適法に滞在できないのです。
「なんだ家探しか、そんなの日本だって大変じゃないか。家賃・治安・通勤のバランスを考えると頭が痛くなってくるよ。」そんな声が聞こえてきます。しかし、オランダでの家探しの難易度は日本の比ではありません。
例えば、私は現在住んでいる1件の家を賃貸するために、200件ほど申し込みしました。家を探すために有料情報サイトに登録し、毎日10件ほどの新規掲載物件に間取りも見ずに申し込み、稀に招待される内覧に笑顔で赴き、大家さんに「なんてwonderfulな家だ!ここから僕らの新生活が始まるなんて最高にexcitingだね!」という手紙を書き、事務所の寛大なボスに「うちの事務所は日本の素敵法律事務所で、この松下というナイスガイは家賃もちゃんと払うよ!」という怪しい推薦状を書いてもらい、予算を当初よりも引き上げて、ようやく契約にこぎつけました。
他の経験者の話を聞いても、数百件の物件に応募して数件の内覧に招待されて最後の1人として契約する、という異常にみえる競争率は普通のことのようで、中には家が数か月決まらずに困っている人もいます。1人暮らしであれば家探しが多少長引いても何とかなるかもしれませんが、私は3人の娘と妻を連れての家探しでしたので、その間のホテル代も笑えない額になりました。
とはいえ、最終的に私はオランダ到着から3週間で家を決めることができましたので、運がよかったと思います。なお、私はハーグでの家探しでしたが、アムステルダムでの家探しは一層大変だと聞いています。
家さえ見つかればもう大丈夫。家探しというオランダの洗礼を受けた後は、オランダビールとチーズ、そしてハーリング(イワシの酢漬け)を楽しみましょう。
ほろ酔いでハーグのやまない雨を眺めていれば、家探しで荒んだ心身もいずれ回復するはずです。
松下弁護士のその他の留学記事はnoteでもお楽しみいただけます。是非ご覧ください。
【2025.12.1】
法律相談・メディア出演のご相談はこちら
お問い合わせMiKoTamaメルマガ
法律に関する様々な情報トピックをメルマガで配信