大正製薬の事例に学ぶ!
ステマ規制の落とし穴と対応策
2024年11月13日、消費者庁は、大正製薬のサプリメント「NMN taisho」の宣伝がステルスマーケティング(通称「ステマ」)に当たるとして措置命令を行いました。
これを受けて、大正製薬は、今回の概要や経緯を説明するニュースリリースを出すとともに、12月13日には、改めて「お詫びとお知らせ」と題するニュースリリースを公開しています。
2023年10月1日にステマ規制がスタートしてから、今回のケースを含めて3件の措置命令が行われたことに。
今回はどこが問題だったの? 今後どんな点に気を付ければいい? など、今回のケースを海老澤美幸弁護士に詳しく解説していただきます。
そもそもステマ規制ってなに?
今回のケースに入る前に、簡単にステマ規制をおさらいしておきましょう。
超ざっくり申し上げると、ステマ規制の対象となるのは、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難であると認められる表示」、言い換えると「事業者の表示(宣伝)なのに、事業者とは関係ない第三者の表示のように見えるもの」です。
ではどんな場合に“事業者の表示(宣伝)”といえるのかというと、「事業者が表示内容の決定に関与した場合」とされています。
このようにある表示がステマに当たる場合、事業者は、「#PR」「#広告」といったハッシュタグを付けるなど、広告であることを明示しなければなりません。
ステマ規制について、詳しくはこちらの記事もご覧ください。
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ステマ規制が10月からスタート! どう対応すればいい?
今回のケースはどこが問題だった?
では、今回のケースを見ていきましょう。
大正製薬はサプリメント「NMN taisho」をインフルエンサーにギフティングし、ギャラを支払うことを条件にSNSでの投稿を依頼しました。そこで、インフルエンサーは2023年6月、「#PR」などをきちんと付けた上で、この商品をSNSに投稿しました。
ところがです。
その後、2024年4月から5月にかけて、大正製薬はインフルエンサー投稿の一部を抜粋して自社ウェブサイトに掲載し、その際に「#PR」などの表示を削除しました(下の図参照)。
(出典)消費者庁ウェブサイトより抜粋
自社ウェブサイトのこの表示こそが、今回ステマ規制に違反すると判断されたのです。
何が問題だったのでしょうか?
先ほど、ステマ規制の対象となるのは「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難であると認められる表示」とお伝えしました。逆にいえば、一般消費者が事業者の表示であるとわかる場合は、ステマには当たらないということになります。
たとえば、会社の公式ウェブサイトの内容は、一般消費者から見ても「公式ウェブサイトなんだからそりゃ宣伝でしょ」とわかるでしょうから、基本的にはステマに当たらないとされています。
消費者庁の運用基準である「「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準」(運用基準)でもそのように説明されています。
しかしながら、これには例外があります。
運用基準によれば、公式ウェブサイトであっても、事業者の表示ではないと一般消費者が誤解するおそれがあるような場合、たとえば第三者の客観的な意見として表示をしているように見えるものの、実際は事業者が依頼したり指示をして特定の内容を表示させた場合などは、事業者はその表示が広告であることをわかりやすく示さなければならないとされています。
また、消費者庁が公開している「ステルスマーケティングに関するQ&A」でも、インフルエンサーに依頼した投稿を「お客様の声」として自社ウェブサイト上に掲載することは適当ではなく、この場合はインフルエンサーに依頼したことをわかりやすく表示すべし、と説明されています。
今回問題となった公式ウェブサイトの表示を見ると、「Instagramで注目度上昇中」とアイキャッチを付けて、インフルエンサーのインスタグラム投稿(のように見える表示)が掲載されています。一般消費者がこれを見れば、大正製薬の公式ウェブサイトではあっても、インフルエンサーの客観的な投稿であると誤解してしまうおそれがありますよね。そうすると、このような表示は「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難であると認められる表示」に当たるよね、というのが消費者庁の判断なのです。
今後どんな点に気を付ければいい?
そもそものインフルエンサーの投稿には正しく「#PR」などが付けられていたわけで、もし大正製薬がこの投稿を埋め込む方法などで自社ウェブサイト上に表示していれば、「#PR」部分もきちんと表示され、ステマ規制には当たらなかったのではないかと思います。
個人的には、今回のケースは、ステマ規制の運用基準やQ&Aにきちんと目を通していれば防げたのではないか…と感じています。
もし、「公式ウェブサイトやSNSの公式アカウントだからステマに当たらない」と思われている方がいましたら、今回のケースをきっかけとしてぜひその認識を改めていただき、依頼したインフルエンサーの投稿を自社ウェブサイトなどで紹介する場合もご注意いただきたいと思います。
今回のケースについてさらに詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
消費者庁ニュースリリース
大正製薬「消費者庁による措置命令について」
【2024.12.18】
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