お店のチラシは著作物にならない?販促資材の著作権について深掘り解説!
お店の宣伝広告のためにチラシを作成して配布することはよくあることと思います。
そんな販売店チラシに関し、「同業他社が自社のチラシを模倣したのではないか、著作権が侵害されているのではないか」、などと争われた事案について、2019年1月、大阪地裁で「販売店チラシ上の表現は「著作物」にあたらない」として著作権侵害を否定する判決が下されました。
どうして販売店のチラシは「著作物」にあたらないと判断されたのでしょうか。
本記事では今回の裁判のポイントをわかりやすく解説します。
どのような裁判だったの?
今回の事案の経緯・概要
X社(原告)は、Y社(被告)からの運営委託を受け、コンタクトレンズ販売店を運営していました。
その後、運営委託の契約が解除されるに至ったため、Y社は、同じ場所で自らコンタクトレンズ販売店を運営することとし、販売宣伝のためにチラシ(被告チラシ)を作成・配布していましたが、この被告チラシは、X社がこれまでコンタクトレンズ販売店を運営する中で作成・配布していたチラシ(原告チラシ)に酷似していました。
今回の裁判は、こうした経緯の中で、X社がY社に対し、被告チラシは原告チラシの著作権を侵害していることなどを理由に、損害賠償金の支払いを求めて訴えたものになります。
(出典)裁判所ウェブサイト:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/413/088413_option1.pdf
何が法律上の問題点となったの?
まず、著作権侵害が認められるためには、原告チラシが「著作物」であることが必要です。
X社(原告)は、
- 原告チラシ上の「検査時間× 受診代金×」、「検査なしでスグ買える!!」という宣伝文句
- 「コンタクトレンズの買い方比較」という比較表
- 「なぜ検査なしで購入できるの?」というチラシ下段の説明文言
- 上記1~3の表現の組合せによるチラシ全体のレイアウト
について、いずれも創作的な表現であるから「著作物性」が認められる、と主張しました。
一方で、Y社(被告)は、いずれの表現にも「著作物性」は認められない、として争いました。
今回の事案のポイント
- 原告チラシ上の宣伝文句、比較表、説明文言に、「著作物性」が認められるか。
- 原告チラシ上の各表現の組合せに、「著作物性」が認められるか。
販売店チラシは「著作物」にあたる?
「著作物」とは
「著作物」とは、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著作権法2条1項1号)と定義されています。
著作物の4つの要件
- 「思想又は感情」を表現したものであること
- 「創作的に」表現したものであること
- 「表現」したものであること
- 「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」であること
著作権法上の「著作物」というためには、上記「著作物の4つの要件」を満たす必要があります。
「創作的に」表現したものとは
著作物の4つの要件の中でも、とりわけ「『創作的に』表現をしたものであること」という要件(創作性要件)を満たすかどうかがよく問題になります。
著作権法上で「創作的」といえるためには、著作者の何らかの個性が表現されていればよい、と緩やかに解釈されています。小説、絵画、音楽などが著作物にあたることは当然として、日記や手紙、子供のお絵かきや作文などにも、広く「創作性」が認められています。
しかし、既存の著作物をそのまま忠実に模倣するような場合には、模倣者の個性がそこに現れているわけではないため、「創作性」が認められません。
また、誰がやってもほとんど同じ表現を使わざるを得ない場合(不可避的な表現を用いる場合)や、誰がやってもほとんど同じような表現となる場合(ありふれた表現を用いる場合)についても、やはり著作者の個性が現れているとはいえないため、「創作性」が認められないと解されています。
「創作性」要件の解釈
「創作性」が認められるためには、既存の著作物を模倣する場合、不可避的な表現やありふれた表現である場合を除き、著作者の何らかの個性が表現されていれば足りる。
こちらの事件ではツイートに創作性が認められています。
販売店チラシの著作物性
原告チラシの宣伝文句・比較表・説明文言には「著作物性」が認められるのでしょうか。
まずは、争点となったこれらの各表現を見てみましょう。
(注)赤字部分は筆者追記。なお、原告チラシ中の男の子や女の子のイラストは、インターネット上のフリーアイコン等を使用したものであって、X社(原告)が著作権を有しているわけではないことから、今回の裁判の対象になっていない。
今回の裁判においては、これらの各表現に「創作性」が認められるかが争点になりました。
「創作性」が認められるためには、先に述べたとおり、著作者の何らかの個性が表現されていれば足りるとされています。
子どものお絵かきや作文ですら「創作性」が認められる場合があることからすれば、原告チラシにも「創作性」が認められても良いように思えます。
しかし、裁判所は、原告チラシのいずれの表現についても「創作性」は認められないと判断しました。
その理由として、眼科での受診・検査なしでコンタクトレンズをすぐ買えるというビジネスモデルを記載する「ありふれた表現方法にすぎない」ことが述べられています。
つまり、表現行為の目的や性質上、同様のビジネスモデルを表現しようとすると、誰がやってもほぼ同じような表現になるであろう、といった評価がされたことになります。
では、宣伝文句・比較表・説明文言それ自体に「創作性」が認められないとしても、それらを組み合わせて表現することには、「創作性」が認められないでしょうか。
裁判所は、この点についても「創作性」を否定しました。
何かを強調し、分かりやすく伝えるために、宣伝文句と比較表と説明文言とを組み合わせることそれ自体は、特徴的な手法とはいえない、という旨が述べられています。
まとめ
今回は、販売店チラシを題材に、「著作物」といえるかどうかの判断基準を見てきました。
取り上げた裁判例では、販売店チラシの著作物性は認められませんでしたが、販売店チラシであれば一切著作物にあたらないというわけではありません。
自社の宣伝・広告戦略に活かしていくためにも、なぜ今回著作物性が認められなかったのかを理解することで大切でしょう。
営業活動をしていく上では、チラシを含め、販促資材の活用が欠かせません。
自社の資材は「著作物」として保護されるのだろうか、また、他人の著作権を侵害していないだろうかなど、不安になったり悩んだりすることも多くあると思います。
そうした際には、一緒に考え抜いてくれる専門家に一度ご相談してみることをオススメします。
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