スマホゲームの著作権はどう考える?
放置系RPGゲーム事件判決をもとに解説!
近年、スマホでプレイするゲームアプリが数多くリリースされており、そのクオリティは日に日に高くなっています。
皆さんは、スマホゲームのプレイ中に「これ、あのゲームと似てるかも?」と思った経験はないでしょうか。
スマホの画面上という限られた環境で表現し、操作させるとなると、似通ったゲームになってしまうのも仕方ないような気もしますが、元のゲームアプリの著作権を侵害することにはならないのでしょうか。
そんなスマホのゲームアプリに関して、同業他社が自社のスマホゲームを模倣しているのではないか、などとして著作権侵害が争われた事案について、2021年2月18日に東京地裁で判決が下され、同年9月29日に知財高裁でその控訴審の判決が下されました(判決文)。
結論として、原告と被告のスマホゲームは確かに似ている部分があるけれども、著作権侵害にはならない、との判断でした。
なぜ似ているのに著作権侵害にならないという判断がなされたのでしょうか。
本記事では、今回の裁判を題材にして、著作物性が認められるためのポイントをはじめ、スマホゲームの著作権について解説します。
目次
どのような裁判だったの?
今回の事案の経緯・概要
X社(原告)は、平成29年3月、放置系RPGゲームとして「放置少女~百花繚乱の萌姫たち~」とのスマホアプリ(以下「原告ゲーム」といいます)をリリースしました。
放置系RPGというゲームジャンルは、スマホを操作していない間にもゲームが進行し、キャラクターのレベルがアップしていたりアイテムを手に入れたりすることができる点に特徴があります。
ゲームをじっくりやり込む時間がない人でもプレイを楽しむことができ、原告ゲームもその一つとして人気を集めていました。
他方で、Y社(被告)は、平成30年7月、同じく放置系RPGゲームとして「戦姫コレクション~戦国乱舞の乙女たち~」というスマホアプリ(以下「被告ゲーム」といいます)をリリースしました。
この被告ゲームは、原告ゲームと見た目やシステムが酷似していたため、パクリなのではないか?とネット上で話題になりました。
X社は、Y社に対し、著作権侵害などを理由に、被告ゲームの配信差止めや損害賠償を求めて、訴訟を提訴しました。
何が法律上の問題点となったの?
著作権侵害が認められるためには、原告ゲームが「著作物」であることを前提に、被告ゲームがこれを複製などしているか否かを順次判断するのが一般的です(二段階テスト)。
そのため、原告ゲームが「著作物」であるかどうかが通常争点となります。
今回の裁判は、これとは異なる判断手法を採用しています。
具体的には、まず原告ゲームと被告ゲームとの共通部分を抽出し、そして、そこに「著作物性」が認められれば、著作権侵害にあたるといえる、との判断手法を用いています(濾過テスト)。
今回の裁判では、こうした判断手法が採用されたため、X社の主張の当否を判断するにあたり、以下の2点が法律上の問題となりました。
今回の事案のポイント
- ゲームの構成・機能・画面配置等に係る共通部分に、「著作物性」が認められるか。
- ゲームのプログラム(ソースコード)に係る共通部分に、「著作物性」が認められるか。
「著作物性」が認められるためには?
「著作物」とは
「著作物」とは、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著作権法2条1項1号)と定義されています。
著作物の4つの要件
- 「思想又は感情」を表現したものであること
- 「創作的に」表現したものであること
- 「表現」したものであること
- 「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」であること
著作権法上の「著作物」というためには、上記の4つの要件を満たす必要があります。
複数の作品の共通部分に「著作物性」が認められるかを判断する際にも、その共通部分が上記の4つの要件を満たすかどうかを基準に判断されます。
今回の裁判では、このうち、「『創作的に』表現したものであること」(創作性要件)、「『表現』したものであること」(表現要件)を満たすかどうかが争いになりました。
それぞれの要件について、以下順に詳しく見ていきましょう。
「創作的に」表現したものとは
著作権法上で「創作的」といえるためには、著作者の何らかの個性が表現されていればよい、と緩やかに解釈されています。小説、絵画、音楽などが著作物にあたることは当然として、日記や手紙、子供のお絵かきや作文などにも、広く「創作性」が認められています。
しかし、既存の著作物をそのまま忠実に模倣するような場合には、模倣者の個性がそこに現れているわけではないため、「創作性」が認められません。
また、誰がやってもほとんど同じ表現を使わざるを得ない場合(不可避的な表現を用いる場合)や、誰がやってもほとんど同じような表現となる場合(ありふれた表現を用いる場合)についても、やはり著作者の個性が現れているとはいえないため、「創作性」が認められないと解されています。
「創作性」要件の解釈
「創作性」が認められるためには、既存の著作物を模倣する場合、不可避的な表現やありふれた表現である場合を除き、著作者の何らかの個性が表現されていれば足りる。
こちらの事件ではツイートに創作性が認められました。
こちらの事件ではチラシの表現や、その組み合わせの創作性が否定されました。
「表現」したものとは
著作権法上で「表現」したものといえるためには、著作者の思想又は感情が外部に認識可能な形で表現されていることが必要になります。
このことから、具体的な表現を離れたアイデアそれ自体は、著作物として保護されない、と解釈されています。
たとえば、ある画家が、独創的な画法を生み出し、その画法を用いて絵画を描いたとしましょう。
この場合、絵画は具体的な表現物であるため、著作物として保護される一方で、画法はアイデアにすぎないため、それ自体は著作物として保護されないと考えることになります。
このような考え方は、講学上、「表現・アイデア二分論」といい、現在の一般的な理解となっています。
「表現」要件の解釈
「創作性」が認められるためには、既存の著作物を模倣する場合、不可避的な表現やありふれた表現である場合を除き、著作者の何らかの個性が表現されていれば足りる。
ゲーム間の共通部分に「著作物性」が認められるか?
ゲームの著作権侵害が争われる場合、ゲームという性質上、
- ゲームをプレイする際に現れる画像等に着目して争われる場面
- ゲームを動かすソースコードに着目して争われる場面
との、2種類に大別することができます。
スマホゲームの構成・機能・画面配置等に係る共通部分
まずは、ゲームをプレイする際に現れる、スマホゲームの構成・機能・画面配置などの点について、どのような判断がされたのかを見ていきましょう。
具体的には、
① スマホゲームの基本的構成
② スマホゲームのキャラクター設定
③ スマホゲームの画面構成や画面遷移など
について、原告ゲームと被告ゲームとの間に共通する部分があることを前提にして、これらの点に「著作物性」が認められるかが争点となりました。
① スマホゲームの基本的構成
原告ゲームと被告ゲームは、いずれも歴史上の武将を美少女化し、キャラクターのステータスや装備を好みに合わせて強化育成できる機能を備えた放置系RPGゲームであるなどの点で共通しています。
しかし、裁判所は、これらの共通点について、ゲームのシステムや機能であって、アイデアにすぎないことから、「著作物性」は認められないと判断しました。
② スマホゲームのキャラクター設定
原告ゲームと被告ゲームは、いずれも「主将」と「副将」とされるキャラクターから構成される点で共通しています。
また、「主将」の職業はゲーム開始時に3種類の中から選択することができる点や、歴史上の人物を女性化したキャラクターが「副将」として登場し、一定の条件を満たすと、そのキャラクターが使用できるようになる点などでも共通しています。
しかし、裁判所は、これらの共通点について、上記①と同じく、ゲームのシステムや機能であって、アイデアにすぎないことから、「著作物性」は認められないと判断しました。
③ スマホゲームの画面構成や画面遷移
原告ゲームと被告ゲームは、いずれも「ホーム」「戦場」「陣営」「倉庫」「チャット」「同盟」といった各画面を主要画面として構成されており、また、ホーム画面上には「競技」「ショップ/商店」「鋳造」「任務」「特典」「チャージ」といったボタンが配置されて、別画面に遷移できるようになっているなどの点で共通しています。
(字面だけでは分かりづらいですが、原告ゲーム・被告ゲームを画像検索などで見てみますと、結構似ている画面もあるようです。)
しかし、裁判所は、これらの共通点について、いずれも創作性が認められない(又はアイデアにすぎない)ことから、「著作物性」は認められないと判断しました。
スマホゲームのプログラム(ソースコード)に係る共通部分
次に、ゲームを動かすソースコードの共通部分について、どのような判断がされたのかを見ていきましょう。
共通部分としては、原告ゲームを構成するプログラムファイルは500個程度あり、そのうちの特定画面の切り替え等の機能を記述するファイルのソースコードについて、これに対応する被告ゲーム中のソースコードがその大部分において一致することが認められています。
類似度は90.66%にものぼることが証拠から示されており、ほとんど同じであったことがうかがえます。
しかし、裁判所は、これらの共通点について、ボタンを押した際に画面を切り替える処理を行わせるなど、定型的な処理を機械的に実行するプログラムであるにすぎないから、定型的なありふれたものとして、「創作性」は認められないと判断しました。
まとめ
以上のとおり、今回の裁判では、原告ゲームと被告ゲームとの間で共通する部分には、いずれも「著作物性」が認められないことから、著作権侵害は成立しないと判断されました。
判決文では傍論ながら、被告ゲームについて、原告ゲームと同じエラーメッセージが用いられていたり、同じバグが存在していたり、はたまた、被告ソースコードには、原告ゲームの開発担当者の名前が残されたままになっていたりすることも証拠から認められています。
しかし、裁判所は、一貫して、その共通点がアイデアや創作性のないものにとどまる限り、著作権侵害に当たるということはできない、と述べています。
とはいえ、どこまでがアイデアや創作性のないものなのかは、ハッキリしない場面の方が多いでしょう。
他人の著作物と似ている気もするけど、似通ったものにならざるを得ない気もするし、実際はどうなんだろうかなど、不安になったり悩んだりすることも多くあると思います。
そうした際には、一度著作権に詳しい専門家へ相談してみることをオススメします。
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