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  • AIPPI Trilateral Meeting 2025 参加レポート


    三村小松法律事務所でエンタメ法務を担当する長谷川未織弁護士が、2025年6月に韓国・慶州で開催された国際会議「AIPPI Trilateral Meeting 2025」にスピーカーとして登壇しました。

    本レポートでは、会議で取り上げられたトピックや参加国との交流を通じて得られた知見をもとに、文化コンテンツの海外展開に関する実務の動向をお伝えします。

    AIPPI Trilateral Meetingとは

    AIPPI(国際知的財産保護協会)は、知的財産の国際的動向を調査研究し、斯界の国際交流を進め、知的財産の国際的な発展に寄与することを目的とする団体で、現在は世界70か国以上に約8,000名の会員を有しています。
    「Trilateral Meeting」は、日本・中国・韓国の3か国が持ち回りで年に一度開催しているAIPPIの会議のひとつで、講演やセッションをとおして、各国の知的財産分野に関する最新の制度や実務に関する情報を共有し、議論を深める場となっています。
    記念すべき第20回目を迎えた2025年は韓国・慶州が開催地となり、会場には日中韓のみならず、東南アジアや欧州からの参加者も含め、総勢165名が集まりました。

    慶州市は、多くの史跡が世界遺産に登録されている歴史ある古都で、静かな湖のほとりに位置する会場は自然に恵まれた落ち着いた環境にあり、国際会議にふさわしい雰囲気でした。


    コンテンツのグローバルIP戦略

    Trilateral Meetingは、開催国の専門家による基調講演と、3つのテーマ別セッションで構成されています。
    今年は以下のセッションが設けられ、それぞれに日中韓の登壇者が1名ずつ参加し、発表が行われました。

    • “Global IP Strategies for Cultural Content”(文化的コンテンツのグローバルIP戦略)、
    • IP Landscape(IPランドスケープ)、
    • “IP Developments in each Jurisdiction”(各国知財制度の最新情報)

    私がスピーカーを務めた、『文化的コンテンツのグローバルIP戦略』セッションは、「弁護士や弁理士だけでなく、ビジネス分野の参加者にも関心を持ってもらえるように」というAIPPI韓国部会の提案により、テーマが設定されました。

    中国からは商標弁理士が登壇し、アニメやキャラクターの保護に関する実務について発表しました。
    作品タイトルや登場人物の名前にとどまらず、「ポケモンボール」や「ルフィの麦わら帽子」といった象徴的なアイテムまで商標登録の対象とする戦略が紹介され、キャラクターをめぐる商標の活用が多角化している状況が示されました。
    こうした実例を通じて、中国市場におけるキャラクターブランドの保護実務に関する近年の状況を把握することができました。

    続いて、韓国からは、メディアブランド「Discovery Channel」のライセンスを活用し、「Discovery EXPEDITION」というファッションブランドを韓国内で展開・成長させた経営者が登壇しました。
    発表では、ブランドライセンス事業に取り組む上での実務的な要点に加え、スポーツ選手や俳優が展開するブランドを各国の文化や市場に応じて展開するためのノウハウが共有されました。 両者の発表を通じて、アニメやキャラクター、ファッションといったエンターテインメント分野のコンテンツを国際的に保護・活用していくには、法的な知識に加えて、ビジネスの現場感覚を踏まえた多角的な戦略が求められることを改めて実感する機会となりました。

    映像コンテンツを海外展開する際の契約と権利処理の実務

    私は「日本の映像コンテンツを海外展開する際の権利処理」をテーマに、日本の法制度や契約実務の観点から発表を行いました。
    日本の映像コンテンツは、字幕や吹き替えを加えてそのまま配信されるケースのほか、現地で独自にリメイクされたり、海外制作会社と共同でリメイク版が制作されたりするなど、多様な形で展開されていますが、どのような方法を取る場合であっても、作品の原作や制作に関わる各権利者から適切な許諾を得ることが不可欠です。
    映像制作には、原作者や出演者、脚本家、音楽作家など多くの関係者が関与しており、特に原作のある作品については、「著作者人格権」の一つである、著作物を著作者の意思に反して改変されない権利である「同一性保持権」への配慮が重要になります。こうした権利の理解を前提としつつ、近年の日本における著作者人格権の考え方や、それを踏まえた契約交渉における留意点を整理して紹介しました。

    また、日本独自の「製作委員会方式」についても取り上げました。
    複数の企業が共同出資し、映像作品の権利を共有するというこの方式により制作された作品を海外で利用する際には、製作委員会内で海外展開に関する合意が具体的に形成されているかどうかの確認が重要であることについて説明を行いました。

    会場からは著作者人格権の取り扱いや製作委員会方式が主流となっている背景、映像における音楽利用の権利処理など、実務に即した多くの質問が寄せられました。
    セッション終了後にも個別に質問を受けるなど、日本のエンターテインメント法務に対する海外からの関心の高さがうかがえました。

    発表内容の詳細については、機会があれば別途紹介いたします。

    制度を超えた実務感覚──国際会議で得られたリアルな知見

    今回の会議では基調講演やセッションに加え、ウェルカムレセプションやクロージングディナーといった交流の場も設けられていました。
    こうした場では、制度や条文だけでは見えてこない、実務の進め方や各国の文化的な背景に基づく考え方に触れることができ、大変貴重な機会となりました。
    特に、契約交渉の進め方や実務上の妥協点の見つけ方といった点について、各国の専門家の具体的な考えや経験を直接聞くことができたのは、大きな収穫となりました。

    今後も、こうした国際会議などに積極的に参加することで、海外の知財実務の最新動向を直接キャッチアップし、日本のエンタメ、コンテンツビジネスの海外展開を、法務の面からサポートしていきたいと思います。


    エンタメやコンテンツビジネスの分野においては、各国の最新の制度事情や文化的背景、商習慣に即したサポートができるかどうかが、海外展開の成否を大きく左右すると言っても過言ではありません。
    エンタメ、コンテンツビジネスの海外展開に関する法務についてお悩みの方はぜひ三村小松法律事務所へご相談ください。

    【2025.8.8】

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