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  • 【インタビュー 長谷川未織弁護士】
    インハウス弁護士の経験を強みに
    エンタテインメント分野に取り組む


    人気映画やドラマなどの動画を配信するサービス「Hulu」のインハウス弁護士として経験を積んだ後、2024年1月に三村小松法律事務所にジョインした長谷川未織弁護士。前職での豊富な知見を活かし、エンタテイメント分野に注力しています。
    インハウス弁護士というキャリアや今後の展望について語っていただきました。


    現場に寄り添いながら
    映像作品の一生をサポート

    ―三村小松法律事務所では、主にどんな案件を担当されているのでしょうか?

    特にエンタテインメント分野の案件に注力しています。映像制作会社や動画アプリを開発する企業、小説や漫画を扱う企業などからご相談をいただくことが多いですね。日々の契約書チェックから、ポイントの決済に関するご相談、オリジナル作品を制作する際の権利処理など、幅広くご相談を受けており、まさに前職の経験をフルに活かせていると感じます。

    ―前職では映像配信サービス「Hulu」を運営するHJホールディングスのインハウス弁護士をされていたということですが、具体的にどういった業務を担当されていたのでしょうか?

    私が所属していた法務チームは少数精鋭だったので、映像作品が生まれるところから羽ばたいていくまでのプロセス全てに携わっていました。
    映像作品に関して法務がサポートするフェーズは、大きく分けて「制作」「活用」の2つにわけることができると考えています。

    まず「制作」は、まさに映像作品を制作する段階です。制作会社や原作者、出演者の所属事務所との条件交渉、製作委員会に関する契約のチェック、脚本の法的観点からのチェック(不適切な言葉や企業から許諾が必要な商品名を使用していないか等のチェック)から制作過程で生じたトラブルの対応まで幅広く担当していました。

    「活用」は、映像作品を他社にライセンスしたり、DVD・Blu-ray 化したり、イベントを開催するなど映像作品を活用するフェーズです。場合によっては、海外へのライセンスなども検討する必要があります。これらの映像作品の二次利用に関する取引に関する契約のチェックなど、映像作品という知的財産(IP)を最大限活用するために尽力しました。

    Huluは映像のプラットフォームとして、他社から映像作品のライセンスを受ける側でありつつ、製作した映像作品をライセンスする立場でもあったため、それらの両者の立場で契約交渉を行う経験を培いました。

    ―映像制作にどっぷり関わる中で、映像ビジネスへの知見を深められたのですね

    映像制作やIP活用などの映像ビジネスはとにかく関係者が多いんです。
    関わる人は国内外の大企業からフリーランスまで幅広く、信頼関係だけでビジネスが進むこともあるなど関わり合い方が千差万別なのも、この業界の特徴といえます。

    誰と誰の間に契約が成立し、契約違反の場合に誰が責任を負うのか、あるいは海外展開する際はどこに注意すればいいかなど、映像ビジネスをめぐる法律問題を考えるためには、映像業界の特性をはじめとする映像ビジネスへの知見がとても重要になります。

    私自身、一気通貫して映像制作に関わってきたからこそ、深い知見を得られたのだと思います。

    ―ほかにどのような業務を担当されていたのでしょうか?

    景品表示法や個人情報保護法、資金決済法などにも広く対応していました。
    また、社員が企画するプロジェクトに関するリーガルリサーチや、ビジネススキームの検討など、新規事業の開発にも携わっていました。

    ユーザーにベストな商品を届けたいという開発者やデザイナーの強い思いに最大限寄り添いつつ、会社として守らなければならないラインを引くのはなかなか大変でしたが、それこそがインハウス弁護士として貢献できることでもありましたね。

    インハウス弁護士の強みは
    想像力、図解力、スピード

    司法試験合格後、一般的な企業法務を扱う事務所に入ったのですが、だんだんと、いち弁護士として契約書にコメントしてそれで終わりというのは、少し物足りないなと感じるようになりました。

    自分がコメントした箇所が現場で反映され、どういう製品になるのかまで見届けたい。会社のメンバーになれるインハウス弁護士になれば、それができるのではないか。そう感じて、インハウス弁護士のキャリアを選びました。
    エンタテインメント分野にしたのは、幼い頃からドラマ、音楽などのエンタテインメントが大好きだったからというシンプルな理由です。

    実際にインハウス弁護士になり、外部の法律事務所や書籍だけでは知り得ない情報がたくさんあることを知りました。現場の動きとか、実際にみんなが何に困っているのかとか、どんなキャラクターの社員が多いのかなど…。
    そうした情報は、一見法律とは関係ないように見えるんですが、そうした情報こそが、法律に引き戻して考える際の重要な鍵になるんです。

    ―インハウス弁護士を経験したからこその強みは、どのような点でしょうか?

    「想像力」「コミュニケーション力&図解力」「スピード」の3つだと思っています。

    現場の担当者と直接やり取りをする中で、「実はここに悩みがあるのかな?」「ネックになっているのはこちらでは?」など、やり取りの裏側に思いをめぐらせて、真意を想像することの大切さに気づくことができました。
    また、現場担当者と伴走するためには、目線を合わせることが不可欠です。そのために、できるだけ図解を活用して視覚的にも理解してもらうことを意識していました。
    それから、実際に交渉に当たる担当者に交渉力を身につけてもらうため、規定の意味や趣旨を丁寧に説明するなどコミュニケーションにも気を付けていました。

    制作現場は常に忙しく「今すぐ回答してほしい」「深い検討は必要ないから概要だけ教えて」といった相談も多く、すぐに対応できる反射神経が身についたように思います。「遅い」「これは不要だった」「ほしいのはこの回答じゃない」など現場担当者の反応をダイレクトに聞けるのも非常に勉強になりました。

    ルールなき領域への
    挑戦者に伴走したい

    ―その後、三村小松法律事務所に転職しようと思ったきっかけを教えてください。

    「Hulu」は大好きな会社でしたし仕事もとても面白かったのですが、一つの会社だけでなく、もっと業界全体をサポートしたいという気持ちが強くなったのがきっかけです。
    たとえば音楽の権利処理や、大規模プラットフォーマーとクリエイターの関係など、業界全体で解決すべき課題に取り組むためには、1つの会社に所属するインハウス弁護士よりも、法律事務所に所属していたほうが動きやすいのではないかなと。

    また、もっと多くの依頼者と一緒に新しい課題にチャレンジして、自分自身をアップデートしたいという気持ちもありました。
    そこで、エンタテインメントにも強く、訴訟やロビイングなどにも力を入れている三村小松法律事務所を選びました。

    ―三村小松法律事務所ではどのようなことを意識して仕事をしていますか?

    環境や技術の変化が目まぐるしい今の世の中では、著作権などの知的財産に関する問題はもちろん、個人情報、デジタルサービスに関する規制など、気にかけなければならないことが多いと思います。
    そこで、映像作品、音楽、漫画等のコンテンツ作りや、技術開発をする皆さんが本業に専念できるように、相談者ご本人が気づいていない課題や解決方法まで私の方でカバーしたサポートを提供することを意識しています。
    例えば、ご依頼された契約書を作成するだけでなく、その契約を通して相談者の方が達成したいことを想像し、そのためのよりよい手段やポイントをご提示する。相談者ご本人が気づいていないところに問題の原因がないかお伺いする、などご本人の目標達成のためのサポートがしたいと思っています。

    ―最後に今後の展望を教えてください。

    実は、もともと弁護士を目指したのは、海外の法整備支援に携わりたいと考えたからなんです。
    国際協力に興味があり、大学で所属していた学生NPO団体「AIESEC」の活動でマニラやカンボジアで長期インターンを経験した際、現地で知り合った方から各国が抱える法的課題や日本が整備した法科大学院のことを聞き、法制度の整備や法曹養成を支援する活動に興味を持ちました。
    その後、継続的に誰かのサポートをするためには、法曹資格を取って法律を実際に使える側にならないと!と思い至り、司法試験の勉強を始めました。

    弁護士になってからすぐに法整備支援に関わることも考えたものの、海外の法制度や法曹養成をきちんと支援するためには、自分自身が弁護士として十分経験を積み、幅広い知見を身につける必要があると感じ、企業法務の道を選び、その後幼い頃から興味のあったエンタテインメント分野でキャリアを重ねると決め、今に至ります。
    いつか「知的財産権×法整備支援」を実現し、より多くの人をサポートしたいと考えています。

    私自身、ルールがないところを開拓し、新たなルールを作る(あるいはあえてルールを作らない)ことで人々の要望や思いを実現することに大きな関心を持っています。
    法整備支援はまさにルールがない、ルールが活用できていないところでルールを整備し、そこにいる人々を豊かにすることですよね。

    エンタテインメント分野で培った経験を活かし、ルールのない新しい領域に果敢に挑戦していく方々のパートナーとして尽力できれば本望です。

    【2025.1.9】

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